第67話 ヴィエント公爵邸:結婚式を目前にして
「忙しいわね〜!」
「ふふ、ついに、結婚式が来週ですもの。当然よ」
「ヴィエント公爵邸に、いよいよ、公爵夫人の誕生かぁ……」
「その公爵夫人のお部屋、改装が無事に終わって、一安心ね」
「ブルーベル様のウエディングドレスが置かれているのよ、見た?」
「もちろん! 素敵だったわぁ」
「聞いた? ウエディングドレスを置いているから、アルヴァロ様は立ち入り禁止なんですって」
ふふふ……と楽しそうに笑う女性達。
ヴィエント公爵邸の、侍女や召使い、といった使用人の女性達だった。
ヴィエント公爵邸は、明るい雰囲気に包まれていた。
待ちに待った、ヴィエント公爵、つまりアルヴァロと、ブルーベルの結婚式まであと数日。
屋敷の使用人達の忙しさも、頂点にあった。
しかし、何よりも自慢のご主人様の結婚式。
アルヴァロはアルタイス王国国王の弟。さらには、最強と評されるほどの、魔法騎士団長である。
独身時代のアルヴァロは、ずっと若い令嬢達の注目の的だった。
その反面、女性嫌いだのなんだので、恋人も婚約者もいなかったアルヴァロ。
そんな彼がようやく掴んだご縁に、誰もが喜びを隠せなかった。
結婚式の準備に、皆の力が入るのも、当然のことだった。
しかも、アルヴァロのお相手は、並の令嬢ではない。
それも、屋敷の人々が鼻を高くする理由のひとつだった。
屋敷の主寝室。その隣に作られている、公爵夫人のための寝室は、無事に改装を終え、若い貴婦人にふさわしい、明るく、軽やかな空間に生まれ変わった。
ブルーベルもすでに荷物を新しい部屋に運び込み、無事、人間の姿に戻ったミカがせっせと部屋の細かいところを、ブルーベルが暮らしやすいようにと整えるのに余念がない。
(ビヨークさんの肩にちょこんと座っていた姿は、可愛かったけど)
そう思って、ブルーベルは微笑を隠すのに苦労する。
新しく、ブルーベル付きの侍女も増え、ミカは彼女達を指導するのにも忙しい。
一方、アルヴァロは。
懲りずに、ブルーベルの部屋を覗こうとして、ユニコーンに追い返されていた。
「ユニコーン、なんでお前まで付いてくるんだ。幻獣は庭にいればいいだろう」
『フェンリルはいいのか? 屋敷の中にあのオオカミがいるのを知っているぞ』
「くそう・・・・」
不思議なことに、大地の精霊との出会いの後、アルヴァロもまた、精霊達の声がはっきり聞こえるようになった。
さらには、精霊魔法が明らかにパワーアップして、騎士団で恐れ慄かれているヴィエント団長である。
そして、主役のブルーベルは……。
仮面がなくなり、全開の明るい微笑み。
ユニコーンやら幻獣を従えて屋敷内を歩くブルーベルは神々しいくらいに美しくて、屋敷の人々は圧倒されてしまう。
「お、奥様がまぶしい……っ!」
「美しすぎる……」
「純白のユニコーンが一緒だわ」
「大地の精霊の愛し子だと聞いたわ……!」
「大奥様がいらした頃を思い出すわ。あの時も、幻獣動物園みたいな感じだったもの」
「奥様は大奥様の超お気に入りらしいわよ? 旦那様が嫉妬されているのを見たもの」
「なるほどねえ〜」
「私、旦那様がじとっとユニコーンを見つめているのを見たことがありますよ!」
まああぁ、あの最強魔法騎士団長である旦那様が!? と女性達の声が重なる。
なぜか気の毒な人扱いになってしまっているアルヴァロだった。
そんな時。
まるでアルタイスに来たばかりの時のように、自信なげで、挙動不審なブルーベルが、アルヴァロと話しにやって来た。
「ア、アルヴァロ様っ……、わたし、お話が……」
「え?」
「アルヴァロ様、あの、あり、ありがとうございました……っ!!」
「え、何、どうした、ブルーベル?」
アルヴァロは話が見えず、おろおろとブルーベルに手を伸ばし、また引っ込める。
「フィリスお姉様のかけた呪いを解いてくださったのは、アルヴァロ様です……! わたし、今まで、お礼も言っていなくて、本当にありがとうございました!! ア、アルヴァロ様は、最高の、最強魔法騎士団長ですっ……! だ、大好きですっ!!」
「え、ブルーベル!?」
アルヴァロの顔が真っ赤に染まった。
しかし、ブルーベルは言い逃げとばかりに、ぴゅっと逃げてしまう。
「ブルーベル〜っ!!」
ヴィエント公爵邸の廊下に、アルヴァロの声が響き、忙しく立ち働いていた人々は、何事か、と振り返って屋敷の主人とまもなく奥方となる姫君が追いかけっこをしているのを不思議そうに眺めたのだった。
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