第57話 結婚式に向けて
アルヴァロとブルーベルの婚約式は無事終了、二人は晴れて婚約者同士となった。
「この勢いで、お二人の結婚式を成功させましょう!」
老家令ローリンはそう宣言し、ヴィエント公爵邸の人々は、一ヶ月後に迫った結婚式と披露宴への準備に、一致団結して取り組んでいた。
会場は、王城。
そのため、若い家令のビヨークが王城との連絡係となって、公爵邸と王城とを頻繁に行き来することになった。
披露宴の食事などは、大きな宴会の開催に慣れている王城側の担当者が問題なく手配してくれている。
公爵家側では、必要な人々に漏れなく招待状を出すことに注力していた。
リスト作りはアルヴァロとローリン、実際の手配は、これもビヨークが責任者となって采配を振るう。
これはなかなか骨が折れる仕事になった。
婚約式に出席した大臣達の話を聞いて、結婚式に参列したい、という希望者が殺到したためである。
これにはアルヴァロも驚いた。
ともあれ、主だった貴族達は全員招待されるため、問題はないはずだ。
ブルーベルはドゥセテラ王国出身だが、アルヴァロに招待したい人はいないか、と問われて、しばらく考えた後、そっと首を振った。
「……いません」
ブルーベルの表情は穏やかだった。
「わたしをアルタイスに送った時点で、お父様もお母様も、厄介者を追い払った、という感じなんだと思います。お姉様方も……。わたしに招待されて、喜ぶ人の顔が、浮かばないのです」
小さな声で、申し訳ありません、と言うブルーベルが不憫だった。
アルヴァロはそっとブルーベルを抱きしめた。
「ブルーベルをいらない、という人々のことは忘れてしまえ。私はあなたが必要だし、ずっとそばにいてほしい。毎日、あなたと一緒に過ごしたいんだ。母上もそうだ。兄上も。この屋敷の人々は皆、あなたのことが好きだろう? 婚約式に来てくれた人々を思い出してごらん。あなたはアルタイスの人間になればいい」
ブルーベルはぱっとアルヴァロの腕の中で、顔を上げた。
「なら、わたしも何かしたいのです。アルヴァロ様の、皆さんの、お役に立ちたいのです。皆さん、とてもお優しいけれど、わたしも、守られるだけではなく、何かをしたい……!」
そう言ったブルーベルの瞳は、キラキラと輝き、もう、うつむいてばかりだった頃の面影はなかった。
ブルーベルの痛ましい生い立ち。悲劇的な事件。
アルヴァロには、ブルーベルが傷つくことを恐れて、言えないこともあった。
しかし、今、ブルーベルは、自分は守られるばかりでなく、自分も何かをしたいのだ、と訴えていた。
「ありがとう、ブルーベル」
アルヴァロは微笑みながら、ブルーベルの頭をぽん、ぽん、と撫でた。
「ビヨークに聞いてみるといい。あなたができることがないか、彼が指示してくれるだろう」
まるで飛び跳ねるようにして、ブルーベルはビヨークを探しに行った。
銀色の長い髪が、きらきらと輝く。
その後を、まるで後追いをする子犬のように、純白のユニコーンが追いかけていく。
そんな光景を愛おしげに見つめながら、アルヴァロはほっと息を吐いた。
こんな日が来るなんて、思ってもいなかった。
誰かを、こんなに愛おしく思うなんて。
こんなにも、可愛くて、一生懸命なブルーベル。
こんな少女と出会うなんて、思ってもいなかった。
ブルーベルは、ビヨークから結婚式と披露宴の会場で装飾に使うお花の担当を頼まれたらしい。
それからのブルーベルは、庭師の老人と一緒に、空いている花壇で、お花作りに忙しい。
ブルーベルはやすやすとお花に精霊魔法をかけていく。
撒いたばかりの種が、どんどん発芽していく。
美しく、大きなお花を、短期間で育てるのだ。
そして、当日前にはたくさんのお花を王城に運んで、会場を飾る。
ついでに、水を操って、庭全体に効率的に灌水していく。
腰を痛めている庭師の老人は、大喜びだ。
厄介な雑草取りの作業も、ブルーベルなら雑草に「お願い」するだけで、一発で終了。
あっという間に、雑草一つない、美しい花壇が出来上がる。
お花や木々にブルーベルが話しかければ、何が問題なのか、すぐわかる。
「土壌の酸性が強くて、辛いらしいの」
「朝早くに、たくさん虫が飛んできて、葉っぱが食べられてしまうらしいわ」
庭師は大喜びで、土壌改良の作業に取り掛かり、虫問題は、ブルーベルが虫さんに「お願い」して、即解決。
庭師はあれもこれもと遠慮することなく、ブルーベルにお願いしているが、頼られたブルーベルは顔を赤くして、ぷるぷる震えながら、喜んでいる。
頼られる喜び。
信頼される喜びに感動しているのが、見ているだけですぐわかる。
……なんて、可愛いんだろう……。
アルヴァロは自分の婚約者が愛しくて愛しくてたまらない。
「ブルーベル様!! デザイナーのアネカさんがいらしてますよ!! お衣装合わせがあるのに、また泥んこになって……!」
庭園から、侍女のミカの悲鳴が聞こえてくるのも、すでに日常となった。
「アルヴァロ様? まぁた、庭ばかり見て。珍しくお屋敷にいるかと思えば、これでは仕事になりませんね……」
コーヒーを持ってきたビヨークが呆れている。
そんな、時だった。
突然、邸内がざわめいた。
激しい靴音が響いて、書斎のドアが激しく叩かれる。
「団長! ヴィエント団長!! 緊急事態です!!」
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