Room4.五十路ダンス

※性的な描写が含まれるので、ご注意願います。



疲れたときの合言葉。

そうだチャイエス、行こう。


中国式整体「水蓮」の看板は夜になると明かりがついて、明け方まで営業をしていた。

よくある雑居ビルの各フロアにあるチャイエスではなくて、

閑静な住宅街の普通のアパートに突如として現れる看板は場違いで異彩を放っていた。

しかも人通りの多い表通りに面していて、以前から気になっていたが足を踏み入れられずにいた。


ある日終電で帰宅したときのこと。

25時を回っていたのであたりは暗く人通りも少ない。

目は冴えて体はガチガチに凝っていた。


「そうだ、あの表通りにあるエステに行こう」


うわごとのようにそう呟くと、電話もせず直接突撃した。

深夜の寝静まった住宅街に煌々と光る「中国式整体・水蓮」という看板がやけに艶かしかった。

古いアパートメントの一室を施術室として使っているらしい。エレベータがないので階段で4階まで歩いて登る。

404号室のインターフォンをプッシュすると中からバタバタという音がして、扉が開いた。


白いユニフォームを着た小柄な50代の中国人女性が立っており「いらっしゃいませ」と言った。

このお店の店長で、女の子は今日帰ったから私でもいいでしょうか?とのこと。

俺は「夜遅くに突然失礼します。全然構いませんよ」というようなことを告げて靴を揃えて客間に足を踏み入れた。


慌ただしく料金表を持ってきてもらう。


「もう電車は終わったから、お客さんがくるとは思ってなかったよ」


たしかに繁華街や歓楽街ならまだしも、帰って寝るだけの住宅街で深夜にチャイエスに脚を運ぶ人間は少ないかもしれない。

40分で三千円の指圧お試しコースをお願いする。

意外にも背術台はちゃんとしたベッドで、顔の部分に穴が開いており痛くないように腹部で抱える枕のようなものまであった。


タオルは清潔。無害なバックグラウンドミュージックが眠気を誘った。

Tシャツとパンツだけになってベッドにうつ伏せになると、より一層眠くなってきた。

「よろしくお願いします」から「力加減いかがですか」まで滞りなく進む。

適当な雑談を交えて指圧してくれたおかげで寝落ちせずに済んだ。


「仰向けになってください」


ベッドの上で体を動かして天井の方を向く。

セラピストのママと対面する。目尻の皺がいくらか年齢を感じさせたが、目鼻立ちのすっきりとている美形。

体はムッチリとしていて、両方の乳房が施術服の下で窮屈そうに収まっていた。

さきほどの雑談で離婚した旦那のこと、中学生くらいになる娘さんがいることを聞いていた。

皆日常の笑顔の下で、人知れず苦労しているのだなと思った。


力加減は絶妙とはいえ、あくまで全身指圧。至ってノーマルな施術だ。

「疲れマラ」という言葉がある。

ふつうだったらあまり反応はしないはずの陰茎が、性的な刺激とは無関係に勃起してしまう。

その時の俺は連勤と深夜と寝不足、コーヒーの飲み過ぎ、射精しないまま数十日経過しているというフルコンボだった。

下半身の隆起が天井を向いていた。それには触れずにいてくれたママの優しさ。

しかし目の前にふたつの大きな山があると男はどう反応するだろうか。


「人はなぜ山に登るのか?」「そこに山があるから」

「男はなぜ胸を揉むのか」「そこに胸があるから」


まったく同じですよね(違げぇよ)。

ユニフォームの上から持ち上げるように両胸を揉むと微笑んで容認してくれた。

苦しそうだったので自然な流れでチャックをおろしてあげると、豊満なバストと年相応な躯体が露わになった。


澄ました顔が少しずつ苦悶と快感の表情が変わってきたのを見逃さず、下をおろして手を入れると

びっくりするくらい湿り気を帯びていた。


「そりゃそんな触られ方をしたらそうなるわよ」


こうなるともうマッサージどころではないです。

隣の部屋に敷いてあった女の子の仮眠用の布団の上に移動して、欲望のまま貪った。

ついさっきまで指圧をしてくれていた五十路のママを、布団に転がして悶えさせている。

近所がみんな起きてしまうんじゃないかというくらいの声量なので、気が気じゃなかった。

1回達しただけではまだ足りないようで、今度はアパートのドアの近くにある自分のベッドルームまで連れて行かれた。

どうやら自宅兼用らしい。


手を引かれて部屋までいくと、引き出しから見たこともない極太ディルドが出てきた。

今まで同衾したことのある女性からは「あなたのモノは太さと長さは標準以上だ」と評されることはあったけれど、これは規格外で比べ物にならない。

洋物のAVみたいだ。


そいつを手渡されたので、ゆっくりとママのアナにナマで押し込む。

ずっぽりと飲み込んで恍惚の表情。

寂しい夜は一人でこれを使って自慰しているのを想像すると、愛おしさすら感じる。

年齢とかルックスとか無関係に、女性がエクスタシーで表情を歪めているのは美しい。


これはアニメや漫画みたいに誇張されていたり、アダルトビデオやエロ本で作られた紛い物では得ることはできない感情。

その場に居合わせた瞬間にいつもそう感じる。


好みとかタイプみたいな感情や理性を超えた野生的な部分が反応する。

フェチとか性癖じゃなくて、脳幹に刻まれたプリセット機能だと思う。

俺はたぶん女性と話したり刹那的な関係性を結ぶのが好きなのだろう。

特定の年代とか見た目の可愛さとか趣味趣向とか性器の位置とか、そう言ったものは無関係なのだ。


性エネルギーは心や体の相性とは無関係に沸き起こる、こんこんと湧き続ける衝動だ。

性欲の強い波に己を解放して、できるだけ大きい懐でそれを受け止めて

可能な限り現実の場面で放出するように心がける。可能な限り抗わない。


流石に4、5回昇天すると疲れたようで、肩で息をしていた。

べっとりした玩具を引き抜くと汗とフェロモンの入り混じった芳醇な香りが6畳間に満ちていた。


時計は深夜2時を回っていた。

交代でシャワーを浴びて、お店の麦茶を飲む。

携帯の電話番号を交換してバイバイする。



歩いて自分の家まで帰って、もう一度しっかりとシャワーを浴びた。

冷たい水を飲んでからベッドへ潜り込んだ。

その夜は身体が火照ってうまく寝付けなかった。


明け方すぎにもらった携帯番号にSMSを送ると「お店開ける前にもう一度来て」とのことだった。

404号室をノックすると、部屋着姿の五十路のママが玄関で出迎えてくれる。

客間ではなくベッドルームに通される。

昨晩の続きをするように、お互い裸になって今度はゆっくり体を愛撫。

あったまってきたので洋物玩具を使って昇天させる。

もしもの為のコンドームをたくさん用意してくれていたけれど、

(十分に勃起しているにも関わらず)挿入する気にはなれなかった。


その年相応の体躯を撫で回して、垂れかけている乳房を掴んで、中をかき回せば十分に気分が満たされた。

女の方もそれなりに満たされていたようだった。


それから何度かお店に足を運んだけれど、あの夜みたいに激しく性的な遊びをすることはなかった。

お店の女の子がマッサージしてくれることが多かった。

彼女はそれなりにセクシーな衣装と佇まいで思わせぶりな触れ合いをしてくれたけど、お互いが裸になることはなかった。


その頃は他の行きつけのマッサージ店の女の子やママとも連絡をとっていたし、次第に「水蓮」からは足が遠のいた。



その町から引っ越しして、2年くらい経った頃だったかな。

久々に再訪するとママがいた。


今回は妙にそそられるキツキツの施術ユニフォームではなくて、標準的なチャイエスのシックなドレス姿。

あの頃から2年分歳を重ねていたけれど、より一層美魔女感ぽさが増していた。

以前そうしたように下心で触れようとすると


「来月再婚するの。もう新しい旦那がいるからダメなのよ」


と言った。


たいていの女性はそうであると思う(そう思いたい)けれど特定のパートナーがいる時、他人に体を許すことはない。

特に中国の女性はその傾向が強い。あくまで経験の範囲ではそう思う。


アダルトビデオ業界ではマッサージやエステというジャンルは確固たる地位を得ている。

女性が男性を犯したり、あるいは女性客に対して男性セラピストがエロ行為をしたり、それぞれの逆パターンも存在する。

たいていは男性が射精して終わる刹那的なセックス・パートナーの物語。


現実でも同じようなことは毎日のように起こっている。

経験談や匿名の書き込みから推測するだけでも相当数だし、たまたま隣のブースの客がエロ行為をしているのを耳にする機会すらも何度かあった。


もちろん現実ではアダルトビデオのように画一的な射精行為だけに終始しない。

そのグラデーションはさまざまだ。

ちょっと手を伸ばしただけで烈火の如く怒り出して出禁になる場合もあるだろうし

(考えてみれば当然のことだけれど)

お互いが意気投合して貪り合うこともあれば、その中間行為や店外デートなどさまざまなかたちで発展・展開していくことがある。


一人ひとりが固有の体験をしていて、「絶対に願い下げ」〜「うらやまけしからん(死語)」まで様々なバリエーションが存在している。


そんな秘密の扉はあなたの住んでいるすぐ近くに、

繁華街や歓楽街を抜けた先にある、閑静な住宅街でノックされるのを待っているのかもしれない。

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