Room2.太陽の下で(前編)
※性的な描写が含まれるので、ご注意願います。
「あした遊ぼうぜ」
その一言でノープランで適当に集まってダラダラ過ごす。
そんな関係性は年々減っていく一方だから貴重だ。
一抹の寂しさを覚える自分に気がつくが、大人になるってそんなもんだ。
真夏の関東平野に照りつける陽光は殺人級。
はっきりいってわざわざ出歩くだけでも狂気の沙汰。
すっかりイカれちまった世の中。しらふで喜劇を演じ続ける。
駅前の葬列を尻目に僕らは当然のように集う。全てが気が狂うほどまともな日常。
その日は同僚の山岸くんと日帰りで釣りに出掛けて、そこそこの釣果に満足して昼前に引き上げた。
昼飯は魚釣りとは一切関係がない焼肉かホルモン焼きに行った気がする。
ハシゴでラーメンを啜って汗をかき、珈琲店でアイスコーヒーを呑んで涼むという胃腸に最悪のコンボ。
そんなことがその頃の僕らにとって全てだった。
昼過ぎに解散して、単身川崎駅の周辺をぶらつく。
飛び込みでもしてみるかとひとりごちる。
駅近だからといって線路へ飛び込もうというわけではない。
炎天下でもそこまで常軌を逸した発想は出てこないくらいには健常。
かと言ってお世話になっている会社に挨拶とか大勢が水着姿ではしゃいでいるプールとかっていう
発想が出てこないくらいには不健全。
今日もメンズエステの新規開拓へと決め込んだわけだ。
*
メンズエステランキングの上から順番にコールしていく。
今すぐ入れる嬢はいらっしゃいますか、と問いかける。
「1時間後なら可能ですが」
急ぎですので(急いでエステの意味は自分でもまったくわからないけれど)他をあたらせてもらいます、と答える。
そんなやりとりを数回繰り返す。
「新人ですがすぐご案内できます」
「オプションなし10,000円/70分でお願いします」
6件目くらいでようやく決定。
フリーで新人だから割引適用らしい。
駅から歩いて10分程度の単身向け高層マンションの一室だ。
特に問題のない受付とのやりとりを経て、ショートメッセージで住所が送られてくる。
開始時間1分前に508号室のインターホンを鳴らしてくださいとのこと。
特に見るものがないエリアなので、駅前のDICEで時間を潰してからマンションへ向かう。
時間きっかりにオートロック式のインターホン前でコールを鳴らす。
無言でドアが開けられる。
ここまではどんな体験が待ち受けているかまだ未知数。
嬢はこちらの見た目の印象だけ確認した状態。
このエレベータホールから部屋へと向かうときが、
あるいはメンズエステ特有のドキドキ感がピークを迎える瞬間かもしれない。
*
「はじめまして」
マスクをした可憐な雰囲気の女性が出迎えてくれる。
「暑かったですよね。遠くまですみません」
駅前の商業ビルで涼んでいたから大丈夫、と気遣いに感謝して上がらせてもらう。
オフホワイトのTシャツからわずかに胸の谷間が覗いている。
丈の短いの黒いスカートを身につけて、首元には最低限の装飾といった程度のアクセサリ。
標準的な清楚系のメンズエステの制服だ。
それでもマスクで隠れたわずかな顔の表情や雰囲気から、可憐な女性と断じるに十分なオーラを放っていた。
「美陽といいます。本日はよろしくお願いいたします」
丁寧な物腰で椅子へと案内されて、カウンセリングシートに記入してシャワーの準備をするように促される。
綺麗なワンルーム。
20代の女性が一人暮らしをする間取りとあいまって密会っぽさが演出されている。
冷蔵庫の上の出しっぱなしのペットボトルが目についた。
「スミマセン。前のセラピストが出しっぱなしでして、すぐ片付けますね」
美陽がさっとゴミを捨てにいく後ろ姿も、初めて彼女の家に遊びにきた感すら感じさせる。
完全に妄想が捗っているので次行きますね。
シャワーで汗を流す。
紙パンツを身につける。
腰にタオルを巻いて、ベッドでうつ伏せになって待つ。
特にオプションをつけていなかったので、至ってノーマルな施術がはじまる。
Tシャツと短いスカートから手足の感触が直に伝わる。一種の儀礼的な様式美。
エロさやホスピタリティ”あるのかないのか”感のない率直な指圧。
「実はあたし今日が初出勤で二人目のお客さんなんです」
”私”でもなく”わたし”でもなく”あたし”という一人称。
あくまで業務的な接点しかないのに、一歩プライベートな感覚がある絶妙な呼称。
慣れずに大変ですね、と労いつつ気にせず力加減いろいろ試してくださいとも伝える。
「一人目のお客さんがちょっと変で。お兄さんが良さそうな人で安心しました」
聞くと僕なんかが及ばないくらいの道楽的な小金持ちが、やたらとちょっかいをかけてきて対応に困ったらしい。
既に次回の予約も入れてるみたい。どうでもいいけれど。
大変な目に遭って大変ですね、
というような言っても言わなくても変わらないような応対をする。
美陽が話すセンテンスの量に正比例して施術の密着度も上がる。
ほとんどの人は相手に面白い話なんて求めていない。
自分の語るストーリーを聞いてほしい。
できれば悲劇のヒーローかヒロインでありたい。物語の主人公に称賛を贈る聴衆が欲しい。
人が共通して持っている願望を知ってしまえばあとは簡単。
よき聴き手であることに徹すればいい。
メンズエステ特有の、マッサージとしてはまったく無意味な姿勢のカエル足から四つん這いへと移行。
密着度がさらにあがる。
美陽の儀礼的な様式美が一人称的なタッチに劇的にシフトした。
鼠蹊部をなぞる指先が、紙パンツから腹部へと伸びてくる。
文字にするとわかりづらいけど、
ほぼイチモツが紙パンツから出てて腕コキみたいな状態。
「腰を落としてください」
言われるがままそうすると、
露出したモノが美陽の太ももの間にまっすぐ挿入されることになる。
このまま果てたらどうすればいいのだろう。率直にそう問いかけると
「見なかったことにします」とイタズラっぽく答える嬢。
欲望のリミッター解除。目的地まで全速前進。無我夢中で腰を振り、その白い太ももに
もっと白い液体をドクドクと射出した・・・・!
とはいかないのが蓄精道。不必要な射精には至らずにして候。
自然な流れで(そして不自然極まりない体勢で)嬢の控えめな胸へと手を伸ばす。
拒絶されない。
嬢がわずかに吐息を漏らしたのを見逃さない。
今度は僕が美陽さんをマッサージしますね、とかAVでしか見ないようなムーブをかます。
攻守交代で嬢を寝かせて正常位の体勢に。
手を秘部にあてがうとしっとりと濡れていた。
徐々に(90分コースなりのペース配分で)手を奥へと這わせていく。
吐息が喘ぎ声になったのを見逃さない。
下の布が邪魔だから脱がしちゃいますね、というエロ漫画でしか見ないようなムーブをかます。
「さすがにそれは」
スカート履いたままだから大丈夫です!という謎理論で説得する。
「そ、そうですよね」いや、謎理論で突破できるんかい。
舌を這わせてさらにねっとり系で責め立てること数分。
嬢はそのまま昇天。
息遣いが荒くマスクが苦しそうだったので、外してあげた。
いや、めっちゃ美人じゃないですか。
「ありがとうございます。はずかしい・・・」
下の布を身につけていないことの方が恥ずかしい気がするけれど、
フル⚪︎ンが紙パンツからこんにちは、している僕が言えたことじゃないな。
美陽は某坂道グループのセンターにそっくりで、特に笑った顔が瓜二つだった。
「あたしアイドル詳しくないんですけど、確かにたまに友達にそう言われます」
美人と自覚しておきながらそれを表に出さず、かと言って卑下しないところから
可憐な女性のオーラが放たれるのかもしれないですね。
「こっちが気持ちよくなっちゃってすみません。正直お兄さんタイプだったから」
リップサービスをありがたく受け取る。
お互い人間だから、そういう気分になることも何百回に一回はある。
タオルを持ってシャワールームへ。
紙パンツを捨てる。
汗を流してミネラルウォーターを飲む。
たぶん喉カラカラになった美陽と半分こする。
「また来てくれますか?あたし平日の昼か金曜の夜に出勤してます」
昼職の都合だそうだ。
有給をとるか、営業帰りに適当に半休取ってくるから大丈夫ですよ。
扉の向こうで可愛らしく手を振る美陽に向かってバイバイ。
508号室の扉を閉めて、余韻に浸りながらエレベータホールへ向かう。
真夏の茹だるような熱線の洗礼を受ける。
ここしばらくないくらい爽快な気分。息を大きく吸い込んで吐き出す。
とりあえず、さようなら。
そう遠くはない未来に本指名で再会を果たすまで。
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