第4話 ルームキー

※直接的な性行為に関する描写が含まれますのでご注意願います。



世の中には様々な性的なサービスがある。

その中で最もリーズナブルで手っ取り早く遊べるものが「ピンクサロン」だと思っている。


スキマ時間を持て余しているある春の日のこと。

某県の某雑居ビルで営業しているサロンを見つけた。


「そういやピンサロって行ったことなかったな」


その界隈のチャイエスは秀逸で、極上のサービスを何度か受けたことがあり

どの店もハズレがなかったことから軽いノリで入店した。


「ッシャッセーィ」


受付のボーイに5,800円/40分を支払う。

ピンサロのブースは一応仕切りで区切られてはいるが、トイレに行くとき他の客が丸見えだ。

鍵どころか、扉さえないそのスペースは無機質に開け放たれている。

嬢がXXXをXXXして、おっさんがXXXXしている様子を横目で見ながら指定された一番奥のブースへと向かう。


本日のお相手が登場。お、なかなかのべっぴんさん。

初めて利用する旨を伝える。アルコールティッシュで局部を拭かれていざプレイ。


軽い雑談とソフトタッチ。会話は弾む。


「お兄さんカッコイイから知り合いにいたら絶対狙っちゃう」


リップサービスも弾む弾む。

するすると全裸になって、上も下も触らせてくれる。


「攻守交代ね」


そう言うや否やすばやく口で咥えて、さすがプロと唸りたくなるスキルで攻め立ててくる。

数分で無事に放精と至ったで候。禁欲も蓄精もあったもんじゃないな。


「お兄さん本当にタイプ。付き合ってほしい」


はいはい、賢者タイム賢者タイム。

また遊びにくるね、という口約束とハートマーク入りの名刺を交換する。

それを雑居ビルのエントランスにあるゴミ箱へ捨てる。

平日真昼のタイム・オブ・フィロソファーも悪くねぇなと思いつつ駅へと向かった。



その2日後にマッチングアプリで知り合ったフィリピンとアメリカのハーフという

自称モデルのエキゾチック美人とご対面。

待ち合わせに使ったシアトル系のカフェがよく似合う長身の美人だ。


たどたどしい日本語でよくわからない話をしていた。

ほとんど聞き流していたが、周りの客の目がうるさい。

店を出る。


お嬢は数分歩いたATMでお金を下そうとして、残高不足で舌打ちする。


「あーやるならやるで、早く終わらないかな」


めちゃくちゃ他人事のように独りごちた。多分声に出ていた。

空気を察したアメリピーナはタクシーを止めて行きつけのホテルへと向かう。


10分で到着。

ここは料金後払い制で、出る時に支払い完了したらロックが解除されるタイプだ。


ふたりでベッドへ倒れ込む。

なんか「クスリでもやってんの?」っていう目の表情で怖くなる。

やけに硬い感触の胸をまさぐったあと、下に手を伸ばすとゴワゴワとした感触が。


「今日生理なの」


「でも出すところ見たい。手でするから」


「は?なめてんのか?こちとら禁欲者やぞ!(※ピンサロ放精して二日後です)」


出させろ、出さないの押し問答の末、ピーナはタバコを吸って帰ることに。

ふつう逆だろ。


疲れてトイレに座ってぼんやりとする。

ドアをあけるミーナが着替えを終えてドアから出るところだった。

明日の朝早く成田空港からヒースローへと発つらしい。ほんとかよ。


「タバコ、吸っていいから」


マルボロライトのメンソールが2、3本残されて放置されている。

「お疲れ。また会おうね(あっそ、二度とあわねぇから)」



静寂が訪れて一息つく。ふと財布を確認すると持っていた札がない。

4,000円か5,000円は入ってただろ!


イライラしてマルボロに火をつけた。

あまりにくだらなくてどうしようもない状況に笑えてくる。

どうやって部屋から出ればいいんだよ。


落ち着こうとして大学時代世話になった先輩に数年ぶりに電話をかける。

それに応じなかったけれど、繋がりが保たれた気がして平常心に戻った。

(あとで「出れなくてごめん!急ぎだった?」と律儀なメールがきた。

 「マッチングで出会ったオンナとやり損ねた上、金を財布から抜かれてラブホに缶詰めです」

 とか流石に言えなかった。)


落ち着きを取り戻したのでフロントに電話してクレジット決済。

ルームキーを返却して、ついでにタクシーを呼んでもらう。

翌日、ネーナから何事もなかったように空港をバックにした自撮り写真が送られてきた。

まじでムカつきました。


それから月日が流れて2年くらい経った頃。久々に「アソブかな」とアプリを開く。


例のニーナと再マッチ。

>今日暇ならホテルで会おうよ、とメッセが入っていた。

秒速のブロックをキメる。はい終了、鎖国しまーす。



舌の根の乾かぬうちに。

お口直しにと別の外国の女性とやりとり。

介護職のフィリピン人女性。


名前はジョリー。年齢は忘れた。

帰宅ラッシュの電車でマッチして即日合流。


スレンダーな体型で髪は鎖骨くらいまであって、いわゆる後ろ姿美人。

眉の下から唇の先まではアラフィフに見えるのに、他の部分はとても若々しくて不思議だった。

ジョリーは日本に来て3年。仕事が忙しくて彼氏はいなくて、妹と二人暮らし。

妹は彼氏がいて・・・・って死ぬほどどうでもいい。


待ち合わせのファミレス。おごるって言ってないのにおごる流れになってんだよな。

待ち合わせが既に21時を回っていた。


「ホテル行こうよ」の打診に「ウチ来ていいよ」とのこと。


アウェイかぁ。まあいいか(なげやり)。

妹とその彼氏がいたけれど挨拶もそこそこに、コソコソとジョリーの部屋に移動。

さっきからチラチラと見えていた谷間から推察したとおり、

なかなかビッグなサイズのカップでした。


シャワールームへ移動。

このお店はバスタブがないタイプなのね。いや、ここはアパートだった。

ああ、感覚が狂ってきた。


ベッドへ戻る。適当に愛撫して挿入。

持ち歩いているゴムを切らしていたのでNN。仮眠をとって朝起きてもう一発。

だるい体を引きずって会社へ。


>楽しかった。また会いたい☺️


それはよかったね、と適当に返す。

適当にやりとりしてるのにまた1週間後に部屋に遊びに行って宿泊。

記憶も思い出も薄れて霞んでいる。

そのあと疎遠になって半年くらい経ってメッセージが来た。


>今からウチきて抱いてよ。部屋の鍵は開いているから。

 あと部屋から出たくないから飲み物買ってきてね。あとゴムも忘れずに


>半年後にいきなり連絡してきて、人をディルド扱いするな


という趣旨のメッセージを一方的に送りつけてブロック。

まったく碌な奴がいないな(ブーメラン)。



恣意的に並べ替えた体験談と意図的に選んだ自嘲的な自我の協奏曲。

それのどれもが私であって、彼女たちであり、あなたでもある。

目が覚めていつものベッドから起き上がったあなたは、昨日と同じあなただろうか?

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