ESCAPE⑥ 草薙市連続殺人事件 犠牲者4人

第6話 復讐の序章

　蜂須賀蛍の遺体が発見されてから数日が経過し、草薙市はその衝撃から立ち直ることができずにいた。しかし、そんな中、"すみれの郷"の介護施設では別の陰鬱な空気が漂っていた。西澤映、赤澤龍子、折原拓也、そして蜂須賀蛍の4人によるパワハラが日常化していた施設は、彼女の死を受けて一時的に沈静化したかに見えたが、実際にはより複雑な人間関係と陰謀がうごめいていた。

**「蜂須賀がいなくなった今、次はお前か…」**

　西澤が皮肉めいた口調で呟いた。残された赤澤と折原も無言で潜入ヘルパーの美咲を睨みつけた。美咲はかつては刑事だったが、罠にハマりニートになった。結城の助手として働いていたが月給5万、とても食べてはいけないので潜入先の『すみれの郷』での仕事は行きていくために必要な場所だった。

　西澤らは施設内で権力を握り、他の職員たちを思いのままに支配していた。美咲もまた、その圧力に晒され続けていた。

　美咲はこれまで幾度となく耐え忍んできたが、蜂須賀蛍の死を契機に、彼の中で何かが決定的に変わった。かつての自分を取り戻すため、彼女は心の奥底に封じ込めていた「復讐心」に火をつける決意を固めた。

　彼のターゲットは明確だった。西澤映、赤澤龍子、折原拓也――彼ら三人が、自分の人生を苦しみで満たしてきた張本人であり、今やその報いを受けるべき時が来たのだ。

　美咲は慎重に、そして計画的に動き始めた。彼女はまず、施設内の様々な情報を収集し、彼らの弱点を探ることに集中した。彼女は決して急がず、じっくりと時間をかけて彼らの行動パターンや人間関係を把握していった。

**「急ぐ必要はない…彼らが自分たちの行為に苦しむ瞬間を確実に迎えるために」**

　美咲の心には、冷静さと計画性が息づいていた。彼女はすべてを細心の注意を払って進めることを誓い、決して感情に流されることなく、復讐の道を歩み始めた。

　ある日、美咲はついに行動を起こす日が来たと判断した。まず、彼は西澤映を狙った。西澤は施設内での権力を乱用し、他の職員たちに恐怖を植え付けることで自らの地位を保っていた。しかし、美咲はその裏に隠された西澤の弱点――過去の不正行為を突くことにした。

　美咲は巧妙に証拠を集め、それを匿名で施設長の朝日風馬に送りつけた。西澤の過去の不正が明るみに出ると、彼の地位は瞬く間に崩壊し、同僚からも見放されることとなった。

　次に、赤澤龍子に狙いを定めた。赤澤はプライドが高く、他者を見下す性格であったが、美咲は彼女が外部のビジネスパートナーと行っていた秘密の取引を掴んだ。美咲はその情報を利用して赤澤を脅し、彼女を精神的に追い詰めた。赤澤は次第に自信を失い、施設内での影響力を失っていった。

　最後に、折原拓也が残った。彼は表向きには施設のために尽力しているように見せかけていたが、その実態は自己利益の追求に過ぎなかった。美咲は、折原の裏で行っていた不正な金銭のやり取りを暴露し、彼を社会的に抹殺する計画を立てた。

　折原が追い詰められる様子を見届けた後、美咲は静かにその場を立ち去った。すべてが終わった今、美咲には再び自由が訪れたのだった。

　美咲は、自分が行ったことに満足感を覚えたが、同時に、その復讐がもたらした虚しさも感じていた。すべてが終わり、新たな一歩を踏み出すべき時が来たことを悟った彼女は、草薙市を後にする決意を固めた。

　かつての彼女は、この街に何もかもを奪われたが、今では自分の力で新たな未来を切り開けると信じられるようになっていた。草薙市を去り、新たな地で新たな人生を始めることを決意した彼女は、静かに街を後にした。

　美咲の後姿が消えていくと、草薙市の空には淡い夕日が差し込んでいた。その光は、まるで新たな希望を象徴しているかのように、美咲の未来を照らし続けていた。