<7・グループワークでGO!>
白亜の身に起きたことについては、向日葵先生にも共有した。
もちろん魔王云々という話は抜きにして、不審者が出たからみんなで警戒したい、先生たちも気をつけて欲しいという内容だが。
白亜が魔王の生まれ変わりだということ。そして、狙っているのが勇者の生まれ変わりを名乗る組織であること。それをそのまま伝えてしまったら、きっとすぐに信じられる人間はまれだろう。稀や速人あたりは信じてくれるかもしれないが、“なんかのジョーク”もしくは“頭がおかしくなってしまった人の妄言”と思うのが普通だ。
だから、不審者――わざと変質者という言葉も使ったのである。
白亜の容姿ならば、男の子であっても狙われるのはなんらおかしくない。妙な説得力がある。そして、白亜がみんなを避けるような態度を取っていたことは、クラスの大半が気づいていたはずだ。ならばそれを逆手に取ってやればいい。変質者に狙われて、過去に友達が巻き込まれたから警戒していた。そしてみんなを巻き込まないように距離を置いていた――ということにすれば、白亜のイメージはむしろ向上すると考えたのだ。あながち間違ってもいないのだから尚更に。
実際、そのやり方は正しかったらしい。
教室でれもんがみんなに呼びかけ、速人もそれに乗っかってくれたおかげで、教室の空気は一気に“変態死すべし慈悲はない”でまとまった(そのまとまり方もどうかとは思うが)。みんなで白亜を守るという名目で、常に学校の内外と目を光らせていればいい。これで、連中も手を出しづらくなるはずだ。
そして、向日葵先生もまた。
「まあ!」
彼女は眼鏡の奥の瞳をギラリと光らせて、恐ろしいことをしれっとのたまったのだった。
「まあ、まあ、まあ!それは大変ね。早いところ犯人を見つけてちょん切ってやらないとぉ!」
「ちょん切る!?ドコを!?ナニを!?」
「やあねえ、紅葉くん。決まってるじゃない、オホホホホホホ。ちなみに相手が女でも関係ないわよ。女性だってちょん切るところはあるもの。ホホホホホホホホホホホホホホホホ」
こんな具合である。向日葵先生は普段は穏やかで優しい中年のおばちゃんだが、ガチギレすると本当に怖いのだ。だからこそ、れもんも“そろそろ本気で宿題やらないとやべぇ”となっているわけだが。
そして、そんな流れの中、今日の道徳の時間である。
うちのクラスは全部で三十六人の編成となっている。よそのクラスより少しばかり少なかったので、白亜が転校生としてやってきたというわけだ。
一定の間隔で行われる席替えで、近くの席になった人たちで班を作る。今は綺麗に四の倍数なので、四人で一班。そして今回道徳の授業で行うグループワークは、二つの班か三つの班でくっついて合同で行うことになるのだった。多人数で話をまとめて研究する能力があるかどうか、を確かめたいというわけらしい。
ちなみに、れもんとしては道徳や総合学習でやる授業というのが一番意味不明だと思っていたりする。なんというか、国語とか社会でできそうな授業内容なのだが、別枠で設ける必要があるんだろうか?と。まあ、大人の考えることはよくわからないものも多いし、深くつっこんだら負けなのかもしれないが。
「
どーん、と胸を張って言い出したのは速人だった。ちなみに三班合同となった結果、速人も稀も白亜もれもんと同じグループになっている。本来ならば稀以外は別の班であるにも関わらず。
「というわけで。この町の……つーか、この学校周辺の防犯について調べようぜ。あと治安維持とその対策な!」
「あー、それってつまり……」
「そうそう。せっかくなら、どうすればみんなで紅葉を変態から守れるのかを考える!つか、これを考えることでオレら全員の身を守ることにもつながるというわけだ。どうよ、名案じゃねー?」
「おおおおおおおおおお!」
メンバーから拍手が上がった。白亜は少し頬を染めて、悪いって、と呟いた。
「みんなが俺を助けてくれるってのは嬉しい。でも、不審者の人はその……凶器を持っていたように見えたんだ。俺と一緒にいたら、みんなも危ない目に遭うかも」
れもんの意図を察してくれたようで、彼も魔王だの勇者だの云々は伏せてくれている。いざとなったら自分一人でも逃げるし、そうなったほうがいいとまだ思っているのだろう。でも。
「そりゃ、武器持った不審者は怖いけど。それってもう、紅葉くんだけの問題じゃないよね?」
ふんす、と鼻息荒く稀が言う。喋るたびに、ピンクのツインテがふわふわと揺れた。
「警察の人にも言ったし、学校にも言ったでしょ?だったら先生たちも守ってくれるよ、きっと。でもって、不審者の狙いが本当に紅葉くんだけとも限らない。みんなで一緒にいる限り、私達も安全だと思うんだけどどうかな?」
「それは、その……」
「それに、私だっていざとなったら紅葉くんの腕を引いて逃げるくらいはできるもん!これでも鬼ごっこと隠れんぼは得意だし、任せておいて!」
これは本当だった。稀はれもんと比べるとけして足が速い方じゃない。しかし、何故か鬼ごっこや隠れんぼになった途端、彼女だけ綺麗に見つからないなんてことが頻発するのだ。
稀はきっと、人を観察するのが上手く、隠れ場所を見つけるのが得意なのだろう。鬼がどういう場所を探すのか、どういうところなら見つからないのかをよくわかっている。特に、学校のように何年も過ごしてきた慣れ親しんだ場所なら尚更だ。
今まで稀と何度も隠れんぼをしたことはあったが、実は学校で開催した隠れんぼで彼女に勝てた試しがないのだった。
「まあ、桃井はチビだもんな……いっでぇ!」
「そこ、煩いよ?もがれたいの?」
「もぐって何を!?」
でもって、可愛らしく女の子らしい見た目に反して結構な負けず嫌い。余計なことを言った男子の一人が、鼻をつままれて悲鳴を上げていた。何で毎回似たようなやり取りを繰り返すのだろう。学習しないのかこいつ、とれもんは呆れるしかない。
「防犯っていうと、学校の防犯対策って結構気になるところではあるよな」
とりあえず話を戻そうと、れもんは口を挟む。普通の座学よりは、こうしたグループワークの方がれもんはずっと得意なのだった。人と喋ったり、議論をするのは楽しい。時々喧嘩になることもあるけれど。
何よりただ座って授業を聞いているだけより眠くならないのが魅力だ。
「うちらの学校って結構ボロいし、旧校舎なんてその……耐震構造うんぬん大丈夫?ってかんじじゃん?で、公立だから防犯カメラついてたりとか、警備員さんが夜見張ってるとかなんもなし。校門は夜始まってるけど、あれは簡単に飛び越えられるしなあ」
「ってことは飛び越えたんだね、れもんちゃん」
「このあたしが自分の学校で一度も肝試しを試さないと思うのかね?稀くんよ。ちなみに先生に見つかって追いかけられたが振り切ったぜ!」
「アグレッシブすぎない?」
稀のツッコミを華麗にスルーし、つまりだな、と話を続ける。
「どうすればこの学校周辺の防犯意識とか、治安を高められるのかっていうのを考えて、まとめればいいんじゃないかと思うわけ。というわけで、先生に許可取りにいこーぜ!学校周辺をくまなく探検……じゃなかった、調査だ!」
「つまり、さっさと外に行きたいのね……」
女子の一人が苦笑いして言った。てへぺろ、とれもんは舌を出す。
やっぱり自分は、外で動き回るのが一番性に合ってはいるのである。
***
「実は、お前に言っていなかったことがあって」
学校でのグループワーク中であっても、校舎の外は油断ならない。さっき語った通り、ボロボロの公立小学校に、防犯カメラなんて便利なものは設置されていないからだ。
そんなわけで、白亜をけして一人にするわけにもいかず、今彼はれもんと友に裏門近く(まだ学校の敷地内だ)を歩いているわけである。わりと近い場所に速人と稀もいるはずだった。そんな中、白亜が言い出したのがコレである。
「魔王の力について、いくつかわかっていることがあるんだ」
「お前の魔法についてか?白亜」
「それもあるけど、それだけでもない」
彼は右手を、ぐーぱーと開いてみせた。つい昨日の事件を思い出す。呪文を一つ唱えただけで、なにかの武器もなしに――あれだけの雷を起こしてみせた白亜。魔王の生まれ変わりというのは本当かもしれないと、れもんが信じるに十分な出来事だった。
「記憶とともに少しずつ、魔法の力も戻ってきてるみたいだ。でも現在の俺は、下級魔法と一部の中級魔法しか使えない。……勇者同盟と本格的に戦うのを避けていた理由の一つがそれだ。相手が一人なら撃退できるかもしれないが、二人以上だと正直きつい」
それから、と彼は気まずそうに視線を逸らす。
「俺はあんまり体力がなくて……短距離走は少しできるけど、マラソンはできない。長い距離逃げるようなことも得意じゃない」
「……まあ、それなら一人二人と戦って相手を退治するより、隠れ潜んでいた方がいいって結論になるか」
「その通りだ」
ましてや、勇者同盟を名乗る連中が全部で何人いるのかもわからないわけだ。そりゃあ、慎重策を取りたくもなるだろう。
「もう一つ。……魔王の力の副作用みたいなものがあるらしくて。前世でも、その副作用を利用して仲間を増やしていたみたいなんだ」
つまり、と彼はれもんの額に掌を掲げるような仕草をする。
「身近にいる人間の能力を開花させてしまう、というもの。この令和の日本でもそれは有効らしい。前の学校でもそういうことが起きていた」
「開花って、魔法が使えるようになるってことか?あたしも?」
「魔法とは限らないが、戦うための力が目覚めるってことらしい」
周囲をキョロキョロと見回す白亜。れもんを校舎裏にひっぱっていくと、いいか、と土に木の棒で文字を書き始める。
「時間がないから、なるべく簡単に説明する。俺が前世で生きていた世界のことと……ジョブと呼ばれる能力について」
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