第十話 雪降る中で
「ねぇねぇ人間は魔法を使えないってほんと?」
「おんと?」
「そうだよ」
「ふうん、大変だねぇ人間は」
「たいえんたねぇにんえんは」
「そうでもないさ。俺でも使える魔法はある。例えば……喰らえっくすぐり攻撃っ!」
「きゃははははっ」
「あきゃー」
微笑のユウコワとドン引きのクロ。ちなみにクロは今猫の姿に戻ってる。
子ども相手に何してるんだって目線だな。
姉がいたから甥や姪の扱いには慣れたもんだよ。
茂みから覗いてた少女エルフは、ベレタとルサという姉妹だった。歳は十歳と八歳。年齢の割に幼いなと思いユウコワに訊くと、
「あなたのいた日本みたいなことはないの。特にここ辺境ではね」
「あーそっか。五百年以上生きるエルフからすりゃ、この子ら乳幼児がいいとこか」
と、長命種の実態を知る。この子達は猟師をしている父親と近くの山小屋に住んでいるそうだ。戦闘音が聞こえたので好奇心いっぱいに見にきたところ、話でしか聞いたことのない人間の俺がいたから大喜びで話しかけてきたってわけだ。
雪がちらつき始め、やがて本格的になった。
「お父さんはね、今遠くに狩りに行ってて、今夜帰ってくるの」
「かえってくうの」
え?子ども二人を置いて?
「この子達に災厄避けの魔法が掛かってるわ」
とのこと。なら安心ってわけか。
それで彼女らの住む山小屋に案内されてる道中なのだが、
「おい、俺のこと何て説明する気だ?」
「エルフ王国に用がある極秘の使者、私は案内人てことにするわ」
「うまくいくのかね?」
「辺境、しかもこの子達の父親ひとりなら」
「ねぇニコフ!他にも使える魔法ある?」
「まほうあゆ?」
「あるぜ。耳と鼻を同時にピクピクさせる魔法だ」
「あはははっ!ほんとに動いてるぅ」
「うおいてゆ〜」
「ニコフ、あなた子どもに好かれやすいのね」
「甥と姪がいてな、よく遊んだもんだよ」
「あそこだよ!あそこがベレタ達の家!」
「ルサたちのいえ!」
ログハウス風の小屋というより立派な家が見えてきた。かなり大きいな。
ベレタとルサは駆けていく。そしてドアを開けてくれた。
「入って入ってー!」
「あいってー」
中も立派な造りだ。そうかエルフだもんな、時間はあるから作り込む時間はいくらであるわけか。
大きな囲炉裏があって、天井の方へ煙が抜ける構造だ。壁には弓と槍が掛けられて、床には動物の毛皮が敷いてある。座ると暖かい。ベレタはすぐに火を起こし、湯を沸かす。
父方のじいさんの家がこんなだったな。囲炉裏のある家。
「お茶どうぞ」
「どうお」
うむなんだろう、これ、ホット麦茶?でも美味い。ベレタ達の様子を見るに自分たち家族以外の者に会うことはまずないんだろう。だから嬉しいわけだ。なるほどな。辺鄙な田舎だしな。
クロも囲炉裏のそばでくつろいでいる。俺もリラックスさせてもらおう。
ベレタとルサはユウコワから王都の話を色々聞いてお楽しみ中だ。都会に憧れるのはどこも一緒。
外は次第に暗くなっていく。
「お父さんはいつ頃帰るんだ?」
「うーんとね、暗くなる前に帰るって言ってたの」
ルサは寝てしまってる。
辺りは暗くなってきた。そろそろか。
しかし、それから真っ暗になってかなり時間が過ぎてもベレタ達の父親は帰らなかった。
「お父さん遅いねー」
「こんな風に遅れることってあるかい?」
「ううん、一度もないよ」
ベレタは心配そうに答える。
何かあったと考えるべきだろう。急用か?怪我か?
「私がちょっと見てくる」
ユウコワが外へ出た。俺も後を追いかける。
外はまだ雪が降りしきる闇の中。
ふと空気が動いた気配がしたかと思うと、前にいたユウコワの姿が掻き消えた。
「おい?……うぐっ」
腹に激痛。
見ると自分の腹から木の枝が生えている。出血はすぐ止まったようだが、地面に縫い付けられた格好だ。くそっ。傷は治るが木の枝は刺さったままだ。
「ニコフ?どうしたの?」
「ベレタ!来るな!」
遠ざかる足音。ユウコワが攫われた!
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