第13話 隠してきたこと
優香が、今までにないほど弱気な目をして、恐る恐る言った。
「私って、昔からなんでもできたでしょ?」
「……うん。自慢?」
「違うの。私ね、実は魔法が使えるの」
役作りがすごい。そんな、憑依して異世界を堪能するタイプの人だったのか。けど、優香がそんな異世界系のラノベを読んでいるところを私は見たことがない。
が、私はこういうなりきりが嫌いではない。だからこそ、全力でノッていく
「ちなみに……なんか見せてくれたりする?」
「……うん」
優香は、ベッドの上に置いてあったペンギンのぬいぐるみに人差し指をさして、何か言葉をつぶやく。気持ちその周りがポワポワと光ったかと思うと、ぬいぐるみがひとりでに動き出した。
「これで、信じてくれる?」
今にも泣きだしてしまいそうな彼女に、私はただうなずいた。こんなものを見て信じない人も、たぶんいないし。ペンギンが眠たそうに布団の中に潜っていく。
「けど、なんで話してくれたの?そのー……話し方だと、だいぶ前から使えたんだよね。なんで今言おうと思ったのかなって」
優香は俯きながらも、はっきりとした声色で言った。
「怖かったの」
「へ?」
何が怖かったのだろうか。魔法で怖い物なんて撃退できるんじゃないのか。そんな私の思い付きは、次の言葉で消え去った。
「詩悠が私のところからいなくなるんじゃないかって怖かったの。皆が詩悠の身力に気づいて、私しか知らなかった詩悠のかっこいいところも、可愛いところもちょっと抜けてるところも、どこかだらしないところも、全部私しか知らなかったことがどんどん皆に知れ渡っていって……私から詩悠がいなくなっちゃうって、皆が私から詩悠を取っちゃうんじゃないかって思って……」
確かに、私は最近あんまり優香と話していなかったかもしれない。けど、毎日登下校は一緒に行ってる。あ……下校は、陽キャ女さんに連れていかれることもあったから、毎日ってわけじゃないけど。
「それで、それでね?私のことを詩悠に話さないから、詩悠が私に興味なくなったんじゃないかって思って。もし魔法が使えたら、詩悠も気になってくれるでしょ?だから、話そうと思って……けど、話したら気味悪がられちゃうかなとか、不安で不安で……その、あんまり家に呼ばなかったのも、こういう本とかがあるからで、詩悠のこと嫌いなわけじゃないから!ねぇ、詩悠……いなくならないで。お願いだから」
目が、黒く濁っている。たまに見る彼女の目。だけど今日は、その奥になにかが滾っているように見えた。
優香が魔法使いだったことには驚きだけど、正直もう、だからなんだっていう感覚だ。昔からなんでもできた優香が今更魔法も使えましたなんて、驚きはするけど、同時に納得がいく。
「別に、私友達乗り換えるようなやつじゃないし、優香といて暇しないし。今更魔法使えたって別に怖がったりとかしないよ。だから安心しろって。さ、気ままに茶でもしばきますか。お菓子持ってきたんだー」
いつもなら、私のこういう切り替えよう!ってムードを察知して、優香も一緒に明るくなっていくんだけど、今日は違った。私がカバンを漁っていると、後ろからくるっと向きを変えられて、そのまま仰向けで床に押し倒される。
「嫌だ。嫌だよ。詩悠がいなくなるの、耐えられないよっ」
「だから、私はここにいるって―――――
「私に飽きたらいなくなるんでしょ?私が詩悠にとって面白くなくなったら、いなくなっちゃうってことでしょ?最近私とあんまり話してくれなかったのも、だんだんあのギャルの方が居て面白く感じてきたからでしょ?」
優香の言葉を聞いて、言い方を間違えたなと思った。確かに、一緒にいて暇しないからいるって、裏を返せば面白くなくなったらいなくなるってとらえるか。
かといって、私がいなくなることが、どうしてそこまで嫌なのだろうか。優香なら私以外にもいろんな人が周りにいるし、別に私に固執することもないと思うんだけど、そこがどうにも分からない。けど、多分聞いたら悪化するから、今じゃないな。
「ごめんね優香。言い方が悪かったね。私は優香のこと、一緒にいて落ち着くんだ。私の中で二人っきりになっていい人なんて家族か優香くらいだかんね?間がもたないっつーか、そのー、落ち着かないんだよねー。無言の時」
「……そう、なの?本当に?」
気持ち優香の表情が和らいだ。けど、押し倒されて覆いかぶさられているのには変わりない。優香の整いすぎた顔が間近にある。お互い、息がかかっている。
「そうだよ。だから、退いてほしいなーっていうか……ちょっと苦しい」
「嫌だ。だって逃げちゃうでしょ?私にこうされるのが嫌だから、逃れるためにそんなに私のこと褒めてくれるんでしょ?分かってるよ」
優香のおでこが私のおでこにくっつく。そのまま優香の両手が私を抱きしめるように包んでくる。そして、ほぼお互いが密着するような状態になった。
「分かってないんだよなぁ……普通に苦しいんだよ。あと息かかってるから……その、恥ずかしいんだって」
体が熱い。たかだか優香と私の温度のはずなのに、体の中からそれ以上の熱が感じられる。
「どうやったら、信じてくれる?」
私は優香に、素直な気持ちで聞いた。優香は、考えるような表情を一瞬浮かべて、私の耳元で囁いた。
「私の奴隷になってよ」
「は!?な、何言ってんの!?」
驚いて横にある優香の顔を見ると、緩やかな笑みを浮かべて、赤く煌々と、そして暗くどろどろと目が輝いていた。
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