第10話 陽キャ女さんの会話術
「ねぇねぇ、水篠さんってどんな音楽が好き?」
「音楽ねー……あんまり聴かないけど、中学の時に授業でやったやつ。アフリカンなんたらは好きかな」
「ねぇねぇお絵かき好きだったりする?一緒に美術部入らない?」
「運動神経活かして一緒にバスケやろうよ!」
「あー……うるさいわね……」
「ねぇ白神さん。その、趣味とかあったり……ひぃ!」
「……なによ。せっかく考えて答えようとしたのに」
ここ最近、先日のドッジボールの件で新たな一面を見せた白神、水篠、笠波は、一躍時の人となっている。特に、外側はすごく落ち着いた雰囲気の黒髪ショートな水篠詩悠は、そのときに現れた活発な性格の片鱗と、女子たちを庇って相手チームの男子を全員葬り去ったことから、クラスの垣根を越えてファンクラブができ始めている。また人と全く関わらない白神と、プライベートはいまだミステリアスな笠波と仲が良いことから、ちまたの男子からは女たらしとも呼ばれている。
白神雪那については、普段は一切話しかけることができないくらい冷淡で近寄るなオーラを出しているが、水篠と話しているときは表情が和らいでいて、とってもかわいいと一部の生徒から愛されるようになっている。主に遠くから微笑ましく見られている。彼女曰く、水篠詩悠と話すと危険だから本気で遠ざけようとしているだけとのこと。
笠波優香は、入学式の時から全生徒で噂になるほどの美しさでもはや噂にはなっていたのだが、チームにやってくるボールをほぼすべて一人で受け止めて、詩悠のいるチームを男女もろとも蹴散らしていったことから、さらに強くて凛々しいというイメージが付き、もはや学校に入る理由として、笠波優香に会うためというような人が現れるのではないかという騒ぎだ。
というのが、正面玄関入り口の新聞部定期掲示版に貼ってあったのだが
「私別に、ドッジボール楽しんでただけなんだよなぁ」
こんな思考にふけっている間も、私の席は女子に囲まれていて質問が全方位から浴びせられている。そして、いつもは優香のほうにいる陽キャ女さんも、なぜか私の机に腰かけて言論統制をおこなっている。
「ちょっとちょっと、いきなりだと詩悠ちゃんも話し辛いでしょ。一人ずつ言ってね。私が議長を務めるから」
「あー、ちょっと体調不良が……」
「もちろん詩悠ちゃん。逃げないよね?」
「……はい」
「はい、好きなご飯はなんですか!」
「うーん……湯豆腐」
「のんのん詩悠ちゃん。そこはもうちょっと可愛い答えをしないと、男子は冷めちゃうよ?」
「いや別に、彼氏とかそんなんはいいかなーって」
「でもでも、今は女子と話してるんだから話しやすいもの言わないと。嘘でもいいんだよ。全く知らないのじゃなくても、クッキーとか、無難にそんなんでいいんだよ」
「おぉ……勉強になりやす!」
「個性的なのも話は繋がるけど、やっぱり相手が知らない話は、相手はつまらないからね」
「んー……じゃあ、その人と話さないという選択肢は?」
「お友達作りたいんでしょ?ならば、一歩踏みとどまって。自分のことだけじゃなくて、相手のことを知ろうとすることも大事だからね!」
陽キャ女さん。やり手だった。あと、外見はすごくきらきらしてて、さらに案外めっちゃ話しやすい人だった。いやーとうとう私も春が来ましたわ。中学でドッジボールできたら私はもっと輝いていたのだろうか。むふふ、妄想がはかどる……
けど、別に私無理してまで別に友達ほしいとは思わないというか、めんどくさいというか。
「湯豆腐をメジャーじゃないと申すか?戦争か?」
「お、やっちゃう?そうだ。じゃあこれからカラオケ行かない?もっと深いお話もしようよ!」
「いいね。私も水篠さんと行きたい!!」
人生初カラオケだー。嬉しい。誘われたことに感激して泣きそうです。
「んー、けど、今日は寝たいというかだらだらしたいというか」
「逃がさないよ?」
「……はい」
優香としか会話してなかった私は、逃げる手段を知らずそのままカラオケに連れていかれた。
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