第7話 気になる


 有言実行と言ったところか。本当に5分もしないうちに満面の笑みで優香は駆け戻ってきた。


「よし!帰ろ、詩悠」


「よし!の前に、結果報告しなさいな。結構な大イベントなんだよ。中学の時だってモテてたけど、そこまで告白なかったんだしさ」



 まるでさっきの出来事がまるごと頭からすっ飛んでいるかのような優香の言葉に、たまらず私は結果の報告を催促する。するとなんだか、急に優香の顔に陰りが見えて



「え……詩悠は、そこまであの男の気持ちが知りたいの?なんで?」



 と、謎の圧と共に詰め寄られた。一体どうやって聞いていたら告白してきた相手の気持ちを教えて!というように聞こえたのだろうか。



「違うって。相手の感情とかが知りたいんじゃなくてさ、私はどんな展開になったのかを知りたいだけ!」



 ふーん。みたいな訝し気な顔を見せた優香だったが、飲み込んでくれたようで、つまらなさそうに靴箱から靴を取り出しながら言った。



「まあ、それなら……えと、丁重にお断りしたよ」


「ちなみに理由とかは……」


「理由って……詩悠さ。あんまこういうの興味なかったんじゃないの?どういう風の吹きまわしかな」



 その言葉で、私自身もはっとする。今までだって、少ないながらも優香は告白とかをされてきている。私もその話は間接的に知ることがあったのだが、別にその時は告白の返事とか理由とか、全くもって気になっていなかったはずだ。



 だというのに私は今彼女の報告がなんだか聞きたくてしょうがなかった。自分で優香にしっかり行ってこいって告白の場所に送り出したからだろうか。当の本人はけろっとしてて、どうして私の方がこうもどきどき待たなきゃいけないのだろうか。


 目の前で告白イベントの開始を見届けたからだろうか。どこか自分のそういうスイッチが入っているみたいだ。あったことにも驚きだけど。



「ねえ詩悠。聞いてる?高校デビューで恋愛でもしたくなった?」



「違うわ。私に彼氏なんか出来るわけないんだから。ただ単純に本当に興味がわいただけだから。優香は知りたいと思ったことをそのままにして毎日を生活できる?私は知るまで体がむずむずしてたまらないね」



「こんなにド直球に聞く人も私は知らないけどね」


 私はちょっとだけむかついたから、優香を待たずに玄関から外にでる。こんなものに興味を抱いてる私も、すっと言ってくれない優香にも、いらいらする。



 優香は待ってよーと気の抜けた声を出しながら、小走りで追いついてくる。彼女が私の前までやってきて、真正面でにやにやしながら私を見て言った。



「私が取られちゃうかもとか思った?」



「はぁ?なんで私がそんなこと思うわけ?優香は友達だし、友達に春が来ることはを私はそんなふうに思いません」



 あほらしい。にやついてた理由はこれか。何を考えているのかと思ったら……あーなんか、本当にいらいらする。優香に私が弄ばれているかのようで、むしゃくしゃしている。



「私、本屋に用事あるから」


「じゃあ一緒に―――


「いい。一人で行く。優香は先に帰ってて」




 慣れない話題に少し疲れたから、一旦一人で落ち着こう。そう思って私はそのまま優香の方を振り返りもせずに、本屋を目指して大通りの方に行った。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 詩悠はこの後本屋に行ったけどお金を持ってきていないことに気が付いて、とぼとぼおうちにかえったとさ。

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