第6話 親友がモテている

「やったね!おんなじクラスだよ!」



 玄関のドアに張り出されているクラス表を見ると、1年2組の欄に私と優香の名前があった。



「わぁ……あれだね。思えば中学時代一回も同じクラスにならなかったよね」


 小学校で二回ほど同じになっただけで、それ以外はことごとく外れている。それでもなおここまで続いている友人関係という物はわりとレアなのではないだろうか。


「うん……同じクラスだったら、詩悠は……私が」



「おーい優香ー。帰ってこーい」



「なーに詩悠。私ならここにいるよ」



「あー無自覚さんですか」



 中学の時のあれを思い出しちゃうのはわかるけど、どうにも悲しい雰囲気になってしまうから、あんまり口には出さないようにしてるんだけど……あれ以来優香はずっと自分のことを責めているらしい。別に優香のせいじゃないのに。


 にしてもあれを起こした団体のメンバーは、その年内に全員警察に捕まったらしいのだ。びっくりしたよね。優香もあの年はあんまり放課後に遊んでくれなかったし、ほんとに悲しい一年だった。










 入学式も終わり、一通り部活動紹介を受けた後、クラスで帰る前に自己紹介をする時間になった。先生の類まれなるセンスで、出席番号の後ろから順に自己紹介をすることになった。私は初対面の同年代に緊張してしまったせいで、簡略に済ませてしまった。当然質問もこなかった。がしかし、優香が簡略に済ませようとしているのに質問がいっぱい……この差って何なのでしょうか。



「私は笠波優香と言います。よろしくお願いし――――



「質問!優香ちゃんって彼氏いるのー?」


 私の隣の席のきゃぴきゃぴ陽キャ女さんがすごく元気に質問した。い、いきなり名前呼び……私でも、呼ぶのに一学期はかかったのに。などと考えていると、ずんっとその場の圧が皆が気付かない程度で上がる。優香は至って表情を崩さない。


「いませんよ。いたこともないです」



 珍しい。自身のことをあまり知られたがらない優香が、自分からいたこともないなんて付け加えるだなんて……すごい強調して言ってたけど誘ってるのか?誇ってるのか?この年頃の女の子は彼氏いた歴がないことを恥じるとかなんとか聞いたことがあるのだけれど……まあ私もいたことないですけど?何か文句ある!?



「じゃあじゃあ!今告白したらワンチャン付き合えるってことですか!?」


 おー大きく出たね男子くん。この質問にはクラスのみんなも固唾をのんで見守っているぞ。かく言う私も、優香に春が来るのならば、応援してあげたいし。



 刹那、皆も分かるようなくらい、それでいて少しだけクラスの圧が大きくなった気がした。なんなら少し温度が下がった気がする。優香は至って表情を崩さない。みんなが見惚れる笑顔のままで率直に答える。


「相手のことも分からないのに、付き合うのは難しいです」



 なるほど、ごもっともだ。だがしかし、好きという感情はいったん付き合ってから知ることもあって、まさかこの子が実はこんな子だったなんてなんていう意外な一面にきゅんとすることもしばしば……好きという感情は、すごく奥が深い。私がこれまでの人生で私への好意に気づけているのならば、どれだけ人生が豊かになっていたか……


 好きという感情は、なかなかに掴めないものなのである。(ラノベでさんざん二次元の中の恋愛を見守ってきた女)



 だから優香も、そろそろ私以外の子とか恋愛とかに興味を示してみてはどうかなーなんて思ったり――――――



「ッ!!!!」



 びびった……ジャンプスケアくらいしかビビらない私が今そのジャンプスケアにやられた。


 優香が、いきなりこっちをガン見してぐわっとオーラを放ってきたのだ。私の後ろの男の子が勘違いしちゃってるくらいには結構まじまじと見てる。そして怖い。目がぐちゃぐちゃの黒になってる。



 こういうときの優香の感情は読みやすい。




 

 どうして周りのことを考えるの?私が嫌になったの?







 らしい……彼女は冷静で賢く、勉強から運動までなんでもそつなくこなすのだが、若干このように論理の飛躍が起こる場合がある。私は、目線でそんなことないよと送ると、彼女は普通の彼女に戻った。クラスの温度は下がったままだ。



 






「詩悠。帰ろ」


 LHRも終わって、高校生としての初めての下校。私のクラスの下駄箱に行けば、すでにその靴箱の一角には一枚の手紙が入っていた。だというのに、当の本人は真っ先に帰ろうとしている。


「……お主、まさかそれを無視して帰ろうとなど考えてはいないだろうな?」



 ぐしゃり。



 え、ぐしゃり?ぐしゃり!?何やっちゃってんのこの子。これってあれだよ?入学して初日に早くもあなたに思いを伝えたくて恐らく急ピッチで仕上げたラブレターってやつだよ?



「え?なに見て言ってるの?なんにもないよ?」


「おい……もしそれ書いた子が見てたらどうするんだ……私なら泣くよ?」



 おい、そのショックを受けたような顔は何だ。その「え、泣いちゃうの?」みたいな目で私のことを見るな。あと泣くのはそれ書いた人だ。



「ごめん詩悠。ちょっと行かなきゃいけなくて」



「……どういう気の変わりよう?」



 もしかして、このラブレターをほって帰ったら私が泣いちゃうとでも思ったのだろうか。てか、私が泣くかもしれないって思ったらそれ見るんだ。動機が意味わかんないよ。



「ごめんね。泣かないでね詩悠」



 だから、私は泣かないって言ってるの!



「私じゃなくてそのラブレターを出した人に言おうね」






「五分……いや、三分で処理してくる」


 優香は階段を急いで駆け上がっていき、ひょっこり顔を出して私に念押ししてまた猛スピードで駆けあがっていった。。



「どんまい……送り主」



 優香の恋愛に対する鈍感さというか……興味の無さに、少し驚いた。


「彼氏……かー……」



 私には早いな。うん、大人しくラノベ読もう。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



優香がこの学校を志望した理由。

家から徒歩で行けるから。以上。


が、入学してから詩悠と一緒に歩いて行けることに気づいてちょっと嬉しくなっている。






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