本編始まり(高校生編)
第5話 また一緒だね
私はそこまで勉強はしてこなかった身だが、優香と同じ学校に行こうと思って、猛勉強をした。彼女が志望している高校は偏差値がまあ割と高く、今の私ではちょっぴり不安だったからだ。
彼女曰く、「私が詩悠の行くところに行くよ?」とのことだったが、それだとなんか負けた気がするのと申し訳ないので嫌だったから、私が優香に勉強を教えてもらうことになった。
優香の教え方は、教科書と数冊の参考書を暗記したすごい感情表現と国語力が豊かな人間が私に最適なカスタムを施して的確に的を得た説明をしてくれているような……まあ暗記は彼女のことだからあながち間違ってなさそうで怖いけれど、本当にわかりやすく、小学生来の中ということもあって質問しやすく、無事私は志望校に優香と一緒に合格することができた。
「やったね。しゅーちゃん♪」
「っ、お、おっす」
不意打ちだったから、少したじろいでしまった。久々に昔の呼び方で呼ばれると、どうもむず痒い。
私と優香で合格しましたの写真を撮って、自分の受験番号の書かれた場所をドアップで6枚ほど写真フォルダに保存した後、優香が合格祝いにと近くの喫茶店に連れてきてくれた。どうやら学校までの道で落ち着いてお話ができるところを調べてくれていたみたいだ。にしても、私たちの家の近くに志望校があったのも幸いだけど、こんなおしゃれな喫茶店があったなんて知りもしなかった。
「いらっしゃいませ。あら二人とも、もしかして合格祝いかしら?」
店内に入ると、大人っぽい綺麗な女の人が案内をしてくれる。店の服なのか分からないけど、コーヒーのような落ち着いた茶色が基調の服を身に着けていて、とてもおしゃれに見える。
「はい。実はそうなんです」
「っす……どうもす」
私はあまり知らない人との会話はしないため、緊張しいがでてしまいあいさつの声が小さくなってしまう。優香は私を見て微笑んでいる。保護者か。
「やっぱり、そうだと思ったのよね。おめでとうございます。記念にドリンク一杯サービスするわね」
「まじっすか!ありがとうございます!頂きます」
この人、気前がいいな。私は早速メニューの書かれている黒板に目線をやる。プロの絵描きかと思うほど精密に書かれた黒板アートで、誰にでもわかるように可愛らしくメニューが描かれている。すごいな。
「……詩悠。がめつくない?」
優香が若干私を見て引いている。でも、私に言わせればやってくれるって言ってることを断る方が申し訳ないと、そう思うのだ。
「もらえるもんは気が変わる前にもらっておくもんだぜ優香ちゃん」
「まあまあ、お飲み物は逃げませんよ」
「「乾杯!」」
私と優香は、窓際の二人用席で乾杯する。私は炭酸もコーヒーも飲めないので、オレンジジュースとパンケーキ。優香はコーヒーのブラックとバニラアイスだ。なんか、私のほうが子供みたいな……
「そんなことないよ。詩悠も十分成長して、可愛いよ」
「そんな、成長って……絶対上から見てるでしょ」
「そりゃ私の方が身長高いからね」
「ぐぬぬ、神様に愛されすぎなんだよ。優香のバカ」
私なんて、賢くないし身長低いし運動もあんまりできないのに、この世界は不平等だ。実に不平等。まあ、だからなんだって話ではあるけど。
「アハハ……神様なんて、そんな……てか、馬鹿とか言わないの」
私がただノリで言った言葉のつもりが、なぜか彼女の心が青くなった。表現が難しいけど、なんだか彼女がしゅんとしている。
「ねね。優香のアイスちょっともらっていい?」
いい気分転換に、私はちょっくらアイスでも頂きに馳せ参じる
「……ぇ、え!?逆にいいの?その……口つけちゃったけど」
「別に優香ならいいよ。知らないおっさんじゃないんだから」
ふふん。優香も乙女なんだなと、なんかちょっと安心する。これで気にせずいいよなんて言われたら、どれだけ大人なんだって割と落ち込んでたと思う。
「……知らないおっさんじゃなかったら誰でもいいんだ」
と思っていたら、今日の優香はなんだか感情表現が豊かだな……なんだろ。嫉妬じゃないけど、悲しみ?嬉しさ?なにこれ。わかんない。
「訂正。優香だからいいんです。ハイ!じゃあもーらい!」
「ちょっと。まだいいって言ってないでしょ」
めんどくさいから適当にあしらいつつ、素早い動きでアイスを頂戴する。初めて来たけど、学校からも近いし多分これからも通うことになりそうなこの喫茶店のアイスの味やいかに……
「ん~甘い美味しい!」
やみつきになりそうなほど良い甘さと、なんだかちょっとだけどきどきしている自分の心臓の鼓動が感じられた。
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