短編集 ワスレナ

ファンラックス

ワスレナ

 忘れな草…花言葉は、誠の愛、私を忘れないで


 お元気ですか?貴方がいってしまってからもう十年が経とうとしています。

 月に一度、貴方との愛を表すために送っている忘れな草は、そちらに届いているでしょうか?


 私の毎日は貴方がいなくなってしまってから、変わりました。義母は介護が必要になり、私が介護をしています。時々癇癪を起こし、殴られることもしばしばあります。義妹は、相変わらずのホストグルイで、度々私にお金を要求してきます。断ると殴られます。でも、もういいのです。


 私があなたと出会ったのは、思えば貴方が声をかけてくれたのがきっかけでしたね…大学のサークルの歓迎会で、私が声をかけられずにオドオドしていたときに、2年生だった貴方が積極的に声をかけてきてくれたのを覚えています。結婚してからも貴方は、毎日仕事が忙しいというのに、私の身体のことをよく気遣ってくれましたね。誕生日にくれた花形のブレスレットを今でも大事にとっています。

 でももういいのです。


 そんなに優しかったあなたは一つ、大きな罪を犯しました。


 それは、子供を宿すことができずに交通事故で死んだことです。貴方が死んだときに

 私はもう、死んでいたのです。

 恥ずかしいことに、数日間は身動きが取れませんでした。

 今なってはもう、どうでもいい話ですが……


 こうして送り続けてきた忘れな草も、今日で最後になります。ようやく長い時を経て貴方に会えるときが訪れるようです。


 彼女は、忘れな草のように、崖の外へとその身を投げた。




 その後、彼女が落ちた崖の下には、

 緑鮮やかなクローバーと忘れな草が一面を覆い尽くした。


 クローバーの花言葉…約束、幸運、そして…



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