第51話
「では、行こうか」
「はい」
レベッカ嬢と合流し、学園内を散策する。
今日はあえてノープラン。それぞれが気になったところに一緒に立ち寄る。
校庭には主に食べ物の屋台が並んでおり、レベッカ嬢たちの焼き菓子店も含まれている。
校舎内では学術研究、講堂では新しく開発された魔法や魔道具の実演が行われている。体験型の企画もあるようだ。
「まずはどこへ行こうか?」
「私、あれが気になります」
そう言ってレベッカ嬢が指したのはクレープの店だ。実に女の子らしい。
二人寄り添って列に並ぶ。エスコートできるよう俺が少し前に出る形だ。
「いらっしゃいませ、ご注文お伺いします」
愛想の良い店員が尋ねる。
「私は…この、いちごのにします。シリル様は?」
「いや、俺はいい」
朝からクレープは重たいからな。
「お待たせしました〜♪」
「あ、請求はアークライトに」
自然な流れで俺が代金を支払う。完璧なエスコートだ。
クレープを口いっぱいに頬張り美味しそうに食べるレベッカ嬢。
ああ、絵になるなあ…
じっと見つめていると、レベッカ嬢は何かに気づいたような顔でそれをこちらに差し出す。
「シリル様も一口どうぞ」
「良いのか?」
クレープを見ていたわけじゃないんだが…
「はい、お裾分けです」
「じゃあ、いただきます」
彼女がそう言うので遠慮なく一口ぱくり。
甘い。美味しいが、甘過ぎて紅茶には合わなそうだ。ここでその感想は無粋なので口には出さないが。
というか俺、今さらりとあーんされたな。あーんってなんかリア充っぽいぞ?
ふっ、ドンマイ前世の同類諸君、俺は一足先に非リアを脱したぞ!
「か、かん…」
レベッカ嬢が何か呟いた。見ると少し顔が赤い。大丈夫だろうか。
「何だ?」
「あ、あの、ごめんなさいシリル様…」
「別に構わないが…」
何の話だ?それより…
「レベッカ嬢、顔が赤いが、体調は大丈夫か?」
心配になって聞いてみる。
「だ、大丈夫です。少し暑いだけで」
「なら良いが…」
俺にとってはちょうど良い、というかむしろ涼しいくらいだが、人によって感じる温度は違う。体調が悪いわけではないのかもしれないな。
俺たちは、ステーキやパンなど、気になる食べ物はほとんど食べて回った。
外国から仕入れたという珍しい氷菓子があったので、それを買って中庭で食べる。
「はい、あーん」
「あーむ」
俺がレベッカ嬢にスプーンを近づけると、ぱくりと口に入れた。小動物みたいで可愛い。
目を合わせて微笑む。ああ、なんて幸せな時間なんだろう。
最初は抵抗があるみたいでぎこちなかったが今は喜んでしてくれるようになった。
「シリル様も、あーん」
「あー」
「楽しそうですね」
入れてもらおうと口を開けた時、声が聞こえた。
口を開けた状態で横目で確認すると、アルが表情の抜け落ちた顔で、いや少し顔を顰めて立っていた。
「婚約者もいない俺の前でいちゃつかないでもらえます?というか公衆の面前ですけれども」
「アル、何か用か?」
「いいえ別に?男友達は全員、出し物の手伝いやら婚約者とのデートやらに行ってしまって暇なので少し様子を見に、そうしたら案の定いちゃいちゃしてるんですからムカつきますよほんと」
少し苛立った口調でそう説明する。
「お前も手伝ってこいよ」
「嫌ですよ、面倒くさい」
「このままここにいるの?」
「そうなります」
「じゃあ、お前の目の前でいちゃつくしかないな」
「いちゃつかないと言う選択肢は無いんですか!?」
「無い」
当然無い。
「くそう…!」
心底悔しそうに体を拳で叩く。
「今日ぐらい良いだろ?学園祭なんだし」
しかも互いの屋敷以外の場所で過ごすのは初めてなんだし。
「はいはい、お幸せそうで何よりですよ…」
アルは若干呆れた様子で背中を向けて去っていった。あれ、ここにいるんじゃなかったのか。
※学園編なのに学園祭のシーンが少ないな〜と思ったので足しました。
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