第52話
その日の夜。
「はあ、昼間に戻りたい…」
「はいはい、手を動かしてー」
アルが冷たい。学園祭でいちゃいちゃを見せつけたからだろうか。すまぬ、機嫌を直してくれ。
「楽しかったなあ…」
しばらく過去に思いを馳せ、目の前の書類に視線を戻してため息をつく。
学園祭の日でも当然仕事はある。俺は嫌々それをこなしていた。あと少しで終わりそうなので片付けてしまおう。
コンコンとノックの音がした。
「誰だ?」
「レベッカです」
応答があったのでドアを開けさせる。
足音がしてレベッカ嬢が部屋に入ったのが分かる。
「すまないレベッカ嬢、すぐに終わらせるか…ら」
資料に書き込む手が止まった。思わずゴクリと唾を飲み込む。
目の前にはパジャマ姿のレベッカ嬢。レースの下にちらりと覗く太ももが色っぽい。風呂上がりの湿った髪が余計に俺の本能を刺激する。
「シリル様?」
レベッカ嬢の声でハッと我に返る。
「あ、ああ、えっと、少し待っていてくれ」
誘惑に気が散りそうになりながら最後の書類を片付ける。
トントンと机で揃えたら終了だ。
「そ、それで、何か用か?」
露出度が高すぎて目のやり場に困る…
「いえ、用というわけではないんですが…その、い、一緒に寝ても、良いですか?」
躊躇いがちに見上げてくるレベッカ嬢は可愛いんだかセクシーなんだか。
いずれにせよ俺が気絶しそうなくらいにHPを削られたのは間違いない。
「あ、ああ、もちろん」
使用人に出て行くよう視線で促し、二人でベッドに座る。初夜と同じシチュエーションだ。そういうことを意識してしまう。
うう、なんかいいにおいするし…これは、心の準備どころの話じゃない…!
劣情に心が乱される。ああ、もう我慢できない。
「あの、レベッカ嬢」
「はい?」
「キ、キスをしても良いか…?」
「はえっ!?」
思い切って切り出すとレベッカ嬢は素っ頓狂な声を上げて顔を赤くした。
「だ、だめだろうか…?」
「あ、はい、え、えっと、いえ…だめじゃないです…」
了承をもらえたので顔を近づけそっと唇に触れる。
心地良くて、体がじんわりと熱くなる。
ゆっくりと顔を離すと、顔を赤らめた彼女の瞳に俺が映り込む。
少し潤んだその瞳に、また欲求が溢れ出した。
「もう、少しだけ」
一度離した唇を再びつける。ゆっくりと舌を侵入させ、彼女の唾液を絡めとる。
キスに味などあるのかと思っていたが、なるほど確かに甘い。具体的な味ではなく感覚として。
ああ、やばい、癖になりそうだ。俺は無我夢中で舐めた。
貪るように味わっていると、レベッカ嬢がパシパシと腕を叩いているのに気づく。
瞬間、一気に現実に引き戻され、さっと血の気が引く。
やってしまった、と思った。
「っ!ご、ごめんっ!」
やりすぎた…引いた、よな。絶対に引かれたよな。
あああ、もう、何やってんだ、俺…
結局本能に抗えずレベッカ嬢を侵してしまった。これではあの女とやっていることが変わらない。
「死ぬかと思った…」
息を荒くしてそう言うレベッカ嬢。
「う、お、怒ったよな」
「いえ、怒ってません。…むしろ良かったです。シリル様、トラウマがあるみたいだったから…」
「…!」
俺があの時話したから、気遣ってくれたのか。道理でレベッカ嬢から夜這いをかけられないわけだ。
「気遣ってくれてありがとう。でも、もう大丈夫だ。心の準備はできている」
というかもう襲ってしまいましたけど…
「なら、心置きなく仕返しできますね」
悪戯っぽく笑ったレベッカ嬢が俺を押し倒し、俺たちはそのまま夜を過ごした。
※51話の方に学園祭のシーンを足しました。
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