第49話
もうすぐ学園祭だ。
放課後に学園に残って準備をする者、実行の主体として忙しなく動き回る生徒会。
学園全体の雰囲気もなんとなく浮ついて、休み時間が普段より騒がしい。
「学園祭ねえ…」
前世でも文化祭は経験したが、そんなに盛り上がるものなのだろうか。
前世の俺がインドア派だっただけかもしれないが、各ブースを回ると精神的にも肉体的にも疲れる。
しかも、どのブースもカップルや友達同士で楽しむことを前提としているので、奇数グループでハブられて一人寂しく回ることとなった者には人権がないのだ。
誰かと一緒に回れば、あるいは、楽しめたのかもしれないが。
「誰かと一緒に、か…」
そうだ、レベッカ嬢と回れば楽しそうだ。文化祭間近に付き合い始めるカップルの心理が分かったような気がする。
…いや、分かってたまるか。リア充爆発しろ。
「シリル様?」
「っ、ああレベッカ嬢」
レベッカ嬢が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。俺が下を向いて歩いていたので、文字通り覗き込む形だ。
え、待ってその態勢可愛い。首の角度とかぱっちりした目とか。氷漬けにして保存したい。
…いや落ち着け、俺。
悟られぬよう深呼吸する。いかんいかん、変態なのがバレるところだった。
「後ろ姿が見えて、声をかけたんですけれど」
「すまない、少し考え事をしていて」
「もしかして、学園祭のことですか?」
「え?ああ」
なぜ分かったんだろう?
だが、この機会を逃すわけにはいかない。
「レベッカ嬢」
「はい、何でしょう?」
「…い、」
一緒に学園祭を回りたい、と言いかけてフリーズする。
もし他の人と回る予定があったら?俺なんかと回るのは迷惑では?そもそもレベッカ嬢、売り子をするって言っていたじゃないか、回る暇などないんじゃないか?
様々な思いが湧き出る。
ぐるぐると脳内を回転するそれは、俺を思いとどまらせるのに十分だった。
「いや、何でもない…」
「?」
すっと視線を逸らした俺を、レベッカ嬢が不思議そうに見た。
「あ、え、えと、そうだ、レベッカ嬢。俺、学園祭で殿下の発表を手伝うことになった」
「そうなんですか。じゃあ、一緒に回れませんね…」
「えっ」
「え?」
俺とレベッカ嬢が交互に疑問の声を上げた。
「だ、だって、まだ誘ってない…」
「え、私は最初から一緒に回るつもりでしたが?」
「そう、なのか…?」
「ええ」
当たり前だろう、という顔で頷く。
「と、友達と一緒に回ったりとか…」
「ああ、そういう選択肢もありましたか」
眼中になかったのか…!?
「じゃあ、俺と回るのは迷惑じゃない?」
「迷惑なわけありますか」
何を言っているんだという顔で肩をすくめる。
「そうか…」
呆れ半分、安堵半分で思わずため息が出る。さっきの俺の不安は何だったんだ…
「じゃあ、さ…その、時間があったら、二人で回らないか…?」
今度はちゃんと言えた。
「はい、喜んで」
やはりレベッカ嬢は笑った顔が可愛い。
レベッカ嬢と共に家に着き、自分の部屋の扉を開けると、俺は思わず眉を顰めた。
机の上にどっさりと書類の山が積まれている。
実はこの書類の中には、本来ユリウス王子が処理するはずの物が含まれている。
最近我儘になってきた王子が、面倒だからと俺に仕事を投げてくるのだ。
「はあ、めんどくさ」
面倒なのはこちらも同じだと言うのに。
それに仕事が増えると家族との時間が取れないではないか。
俺は定期的にセシリアを補給しないといけないのに。
ノロノロとした足取りで机に向かう。
席に着くと、薬を飲み干して気持ちを切り替える。ゴクゴクと喉の音が鳴った。
この薬はポーションタイプ。
一時的な疲れを軽減してくれ、眠気覚ましにもなる。前世で言うエナドリだ。
薬を飲み過ぎるとラクシアに叱られるが、この薬は睡眠薬とは違うのでセーフだ。
「っし、やるか」
早々に片付けてしまおう。セシリアタイムのために!
※2024/11/9 21:37 一部改変致しました。
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