第44話

「んん…」

日の光が目に入って起きた。こんなに頭がすっきりする朝は久しぶりだ。昨日はよく眠れたのだろう。


ん?何だこれ?


目の前が白い。感触はふにふにしている。

柔らかい物に顔を埋めて寝ていたようだ。

枕だろうか。だがこれは、枕の柔らかさと違う気がする…


徐に顔を上げると、ぼやけた視界に亜麻色の髪の女性が映り込んだ。

「ふふ、おはようございます」

「わっ!」


その姿を確認するや否や、俺はがばっと飛び起きる。


「なな、な、何でいるんだ!?」

「何でって、お忘れですか?貴方が一緒に寝たいと言ったくせに…」

レベッカ嬢が寂しそうな顔をする。


「っ!」

そうだ、思い出した。昨日はレベッカ嬢と一緒に床に着いたのだった。


「そう、だったな。…その、ありがとう。おかげでよく眠れたよ」

「私も、シリル様といられて良かったです」


こんこん、とノックの音がした。気配を確認する。

「アルフレッドか、入って良いぞ」

「失礼致します」


アルはドアを開けるなり、口元を緩ませてにやにやし出した。

「おやおや、昨晩はお楽しみだったようで」

「なっ、…っ」

お楽しみではない、と言いかけた口を閉じる。


夜伽は俺のせいでまだなのだが、レベッカ嬢と何もなかったわけではない。何もなかったことにしたくない。


「あ、ああ。レベッカ嬢に気持ち良く(睡眠)させてもらった。ありがとう、改めて礼を言うよ」

「えっ、い、いえ、私も快適でしたから…」


「ふうん?」

これではアルのニヤケが一層深まるばかりだ。

咳払いをして誤魔化す。


「もうこの話は良いだろ。…さてレベッカ嬢、そろそろ部屋に戻って支度をすると良い。俺も今から身支度を整えるから」

「あっ!そうですね、お邪魔でしたよね…!今すぐ出ていきますから!」


そう言うと彼女はそそくさと出ていってしまった。もう少し話していたかったな…


名残惜しさを洗い流すように顔を水につける。

いつも通り着替えて髪を整えて準備完了。


さて、我が弟の尊い寝ぼけ顔を拝みに行きますか…!

うちのレニーは寝起きが一番可愛いのだ!異論は認めないっ!


ノックをすると応答があったので名を名乗る。

「シリルです」

「はい」


使用人がドアを開けると、眠たい目をこすってレニーが出てきた。

「あにうえ…?おはよおざいましゅ」


ほら可愛い!舌足らずな挨拶も、動くたびにぴょんぴょん跳ねる寝癖も全部可愛い!!


「おはようレニー、今日もお前の顔が見たくて来たんだ。といっても起きたのはさっきだけどね」


アルは準備が早いので、全て10分以内に完璧にやってくれるのだ。もっとも、本人もレニーのこの姿を見たがって俺の後ろから覗く使用人の一人であるが。


可愛さに悶えているとレニー付きの使用人から声がかかる。

「シリル様、レオナルド坊ちゃんはこれからお支度がございますのでその辺りで」


俺に呼びかけながら後ろの使用人一同にも目配せすると、さささっと去っていく気配がした。さすが、この従者は優秀だ。


「わかった、もう行くよ。ではまた食事の席でね」

「あい!」


ゆっくりと、余裕を持ってドアを閉めてから壁に両手を着く。


ああああ、可愛いっ!『あい!』とは何だ『あい!』とは!!それが7歳児に許される台詞か!?いや許す!誰が何と言おうと許す!!


しばらく壁を拳で叩いて気持ちを消化する。壁に穴が開く心配はない。

この前ここに穴を開けて、素材を石に変えてもらったからな…いや、申し訳ない。

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