第42話

「さあ、入って入って」

「お邪魔します」


彼女を部屋に入れると、ぐるりと一周見渡してから言った。

「綺麗な部屋ですね」

「いつもはもっと汚いよ。書類も散らばっているし」


(そう言いつつ、満更でもなさそうですね)

(う、うるさい)


ラクシアの、少し揶揄いの色を含んだ平坦な声がした。彼女は姿を現さなくても念話で俺と会話できる。


「家具もおしゃれです」(マスター、このまま壁際まで追い込みましょう。そこに丁度良い壁がありますよ)

「ああ、ありがとう」


「どこで買ったものなのですか?」(マスター、壁ドン顎クイ、耳元で囁くの3コンボが女性には一番きゅんとくるそうです。今すぐ実践しては?)

「うちの領地の商店街で。あそこはマイナーだが良品が多いからな」


「へえ、私も行ってみようかな」(マスター、)

(お前は少し黙っていろ)

「…じゃあ、さ、その…今度一緒にどうだ?」

照れ臭くて目を合わせられない…ちらちらと様子を窺う。


「あっい、嫌だったら、良いんだ!でも、できれば一緒に、行きたい…」

断られたらどうしよう。数日は引きずることになる。

「駄目、だろうか…?」


「ああ、もうっ!」

「っ!?」

レベッカ嬢に突然抱きしめられて俺は一瞬戸惑う。

「良いに決まっているじゃないですか…!可愛すぎますっ!」


そのままベッドへじりじりと追い詰められ、バランスを崩して後ろに倒れ込む。


ぎしっと軋む音がして俺の上に影が重なった、その刹那。

女の姿が脳裏にちらついた。


ひゅっと息を呑む。体が強張る。

「や、やめ…」


「シリル様…」

だが、彼女には聞こえていないようで距離を詰めてくる。


「っ!」

咄嗟に彼女の肩を押し返す。

押し返す力が強すぎて彼女は床にひっくり返り、尻餅をついた。


レベッカ嬢は想定外の事態に目を丸くしている。

一瞬遅れて状況を理解した俺は、己の所業を後悔した。


「っ!ご、ごめ、俺、」

嫌われる嫌われる絶対嫌われる、なんとかして誤解を解かないと…いやでも、言い訳できるような状況じゃないし…!


「お、俺は、君を傷つけるつもりも、拒絶するつもりもなかったんだ、その、今のは咄嗟に…」

「知っています」


「え?」

「貴方が私を嫌いにならないことくらい、知っています」


「…」

「今の反応、過去に何かあったんでしょう?落ち着いて、何があったか話してくれませんか?」


無言で頷き、俺はベッドに座り直す。隣にレベッカ嬢が寄り添った。

深呼吸して気持ちを落ち着けてから、俺は話し始めた。

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