第41話
かくして、突然のお泊まり会(初夜を含む)の開催が決定した。
なるべく平静を装いつつ風呂に入ってからシスに茶を入れ、レニーに本を読んでやる。
そして自室に戻った後、俺は頭を抱える。
どうしよう。初夜ってどうするのが正解なんだ…?
初夜という言葉くらいは、シスに勧められて何冊か読んだ恋愛小説で出てきたので知っている。
男女があんなことやこんなことをするということも。
だがこれは、俺が夜這いに行くのか、はたまたレベッカ嬢が来るのを待つのか。
どちらが正解か分からない。
もし彼女の部屋へ行こうとして、それこそ向こうがこちらに向かってきていたら途中で鉢合わせてしまう。それではなんだか気まずいではないか。
「…何だ?」
気配がしたので呼びかける。
水の粒子が集まってラクシアの姿が浮かび上がった。
「マスターは優柔不断とお見受けし、アドバイスに参りました」
アドバイス?この変態精霊が?
「…聞こう」
「マスター、ここは貴方が行くべきです。男を見せましょう!」
キリリと拳を握る。やはりそう来たか。
「夜這いは男気に関係あるの?」
若干呆れていると後ろから背中を押される。
「良いから良いから、ほら、早くしないと来ちゃいますよ」
「分かった、分かったから」
うるさいラクシアにそのまま促されてドアを開ける。
ゴンッ
鈍い音がした。
嫌な予感がして開いたドアの隙間から向こうを覗くと、額を押さえたレベッカ嬢の姿が目に入る。
「っ!わ、悪いレベッカ嬢、いるとは思わなくて…!痛かったよな、本当にすまない!」
「大丈夫です、気にしないでください」
「で、でも、」
「このくらいなら治癒魔法で治りますから」
「それもそうだな、なら俺が」
有無を言わさぬ早さで治癒をかける。
こういうとき、レベッカ嬢は何でも自分で解決しようとするのだ。少しは俺を頼ってほしい。
レベッカ嬢の方が背が高いので俺が片手を挙げるというなんとも格好悪い体勢だが、一応これでも平均身長くらいはある…はずだ。
「シリル様、治癒魔法使えたんですね」
治癒魔法は水の一系統。ローヒールくらいなら少し練習をすれば扱える。
「なんだ、俺にはできないとでも思っていたのか?」
舐められているみたいで少しむっとする。
「そうじゃなくて、純粋に感心したんです。ちゃんと勉強できて偉いなあって」
ニコニコと頭を撫でてくる。
「っ、またそうやって…」
誤魔化された気がしてならない。しかも年下だからって子供扱い…
「ところでさっき、誰と話していたんですか?」
「っ!!」
ギクッと後ろを振り返るが、ラクシアは気を利かせて隠れてくれたようだ。
家族には内緒にしてあるが、レベッカ嬢に言ったらバレる可能性がある。
ここは誤魔化すしかないな。
「あー、いや、独り言だ。俺は時々、独り言を言う癖があるから」
努めてはっきりと言う。
「そうなんですか…」
レベッカ嬢は納得しているような、していないような表情で頷いた。
※今日の20時頃にもう一話更新します。
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