第40話

ーーシリル様が帰ってくる少し前。


突然の滞在にも関わらず、当主様はすぐに許可してくださった。なんて心の広い方だろう。


セシリア様もすぐに了承してくださった。

『今夜はどうなさいますの?するんですか?するんですのよね?』とウキウキしながら聞いてきたのには戸惑ったけれど。


あとは肝心のシリル様の許可をいただくだけ。


シリル様は、帰ってくるなりセシリア様を抱きしめた。

それを見て、嫉妬とも悲しみとも、愛おしいともいえない複雑な気持ちになる。


「え、レベッカ嬢!?」

私を見ると、非常に驚いた顔をする。何かを言い淀み、珍しく取り乱している。


私への言い訳を必死に考えているみたいだ。

そんなことしなくても、私を愛せないなら愛せないと、はっきり言ってくれれば良いのに。


「二人とも、愛しているんだ。セシリアも、レベッカ嬢も、愛している」


『愛している』。


シリル様の口からポロリと出た言葉に、安心する。ああ、そっか。ちゃんと愛してくれているんだ。


「良かった…」

思わず口から安堵の言葉が漏れる。


(こんな軽い言葉に安心するなんて。)


そう思いながらも、心の靄が晴れていく。


「微笑ましいなと思っただけです」

今はそう言い切れる。少し、ほんの少しだけ羨ましいとは思うけれど。


「…本当に?失望させてない?」

不安そうにこちらの顔を覗き込んでくる。


(子犬みたいで可愛い。)


失望などしていないと言って安心させる。しそうにはなったけれど。


「良かった…」

胸を撫で下ろす仕草は、本当に私に失望されるのが怖いのだろうと思わせる。


安堵した私は冷静さを取り戻し、今回の滞在に至った経緯をお話しする。


弟が生まれたこと。それによってローゼンバーグ辺境伯家の後継問題はなくなったこと。父が結婚に乗り気でいること。


全て話すと、シリル様は構わないと言ってくれた。

もし断られていたらお父様に文句を言われただろう。お父様はああ見えてシリル様を結構気に入っている。

「シリル様が了承してくださらなかったら勘当を言い渡されるところでした」

冗談めかしてそう言うと、シリル様は目を見開き、セシリア様はくすっと笑った。

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