第38話

「おかえりなさい、お兄様」

家に帰ると、セシリアが出迎えてくれる。最近はすれ違うことが多かったので嬉しい。


セシリアに近づきハグをする。よし、今日は逃げられなかったぞ。

「ただいま、セシリア」

ぎゅっと抱きしめ、大きく息を吸って、吐く。

「はああ〜〜っ、癒される〜っ」


たっぷり10秒以上、シスを補給する。


「お兄様、そろそろ…」

シスが居心地悪そうに身をよじる。

「ん、もう少し…」

逃げられないよう強く抱きしめておく。


だが、ずっとそわそわして落ち着かないシスに、一抹の不安が過ぎる。


「もしかして、嫌、なのか?」

ついに、俺の可愛い妹に反抗期が来てしまったのか…!?

「い、嫌では、ないですけど、その、人が見ているので…」


そう言って恥ずかしそうに向けた視線の先を見ると…


「え、レベッカ嬢!?」

何故、いつからという疑問より先に、焦りが心を支配する。


「あ、えっっと、これは、その」

「…」


複雑そうな顔のレベッカ嬢を見て思う。

セシリアに抱きついているところを見たらどう思うだろう。

レベッカ嬢を愛していないと思わせてしまったら?

不安にさせてしまったら、見捨てられてしまったらどうしよう?

どうしようどうしようという念に心が掻き乱される。


「あ、あの、これはセシリアを愛しているというわけでは、いや愛しているんだが、レベッカ嬢を愛していないのではなく、その…」


ああ、言っていることが支離滅裂だ。つまり、俺が言いたいのは。


「二人とも、愛しているんだ。セシリアも、レベッカ嬢も、愛している。だから、だから、」

「良かった…」

「え…?」


誤解しないでほしい。そう最後まで言い切る前にレベッカ嬢が言葉を発したが、俺には聞き取れなかった。


「いいえ、気にしていません。微笑ましいなと思っただけです」

何か、吹っ切れたような笑みを浮かべてそう言う。


「…本当に?失望させてない?」

「失望なんてしてません」

レベッカ嬢はそう、はっきりと言い切った。


「良かった…」

強張っていた肩から力が抜けていく。


「それで、レベッカお義姉様のことなんですけれど…」


早速本題に入るようだ。

そういえば、先程は取り乱して考える余裕もなかったが、何でいるんだ?


シスが視線で促すと、レベッカ嬢は徐に口を開いた。

「今日、ここに泊まらせていただけないでしょうか」

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