第37話

最近、変な噂が立っている。私に関わりの深い噂が。


「聞きました?今年入学してきたへいみ…失礼、元平民の子爵令嬢さんのこと」

「ええ、何でも、シリル様と仲がよろしいとか」

「放課後に図書室で一緒にお勉強なさっているそうですよ?」


私と仲の良い女子たちが話している。クラスの序列でいうと三番目くらい。こうして噂話で盛り上がるような気楽なグループ。


疑問系なのは、それも建前だろうが、というニュアンスを込めているのだろう。


「レベッカ様もご不安でしょう。ご自分の婚約者ですもの」

話が私に振られる。


「ええ、まあ」

実際、大分気にしている。シリル様は私なんかよりノートンさんに気があるのかもしれないと。そう考えると最近言動が冷たいような気もしてくる。


学園では私の方が一学年上なのでなかなかすれ違うこともない。

関わりが薄くなれば当然熱は冷め、他の女性に目が行くのも仕方ないのかもしれない。


でも、よく考えてみると、月一回しか会わないのは今までと変わっていない。もしかしたら最初から…なんてことも考えてしまう。



一人では思考が良くない方向に行ってしまうと思い、セシリア様にも相談してみた。


彼女は私を本当の姉のように慕ってくれている。

いずれ義姉になるのだからと、結婚前からお義姉様呼びだ。


セシリア様からは、

『お兄様はお義姉様を大切に思っている、とだけ伝えておきますわ…』と残念そうに言われた。


今日は婚約者としての親睦を深めるお茶会の日。ちゃんと来てくれるかな。




遅い。いつもは約束の5分前には来るのに。


時間ギリギリになっても来ないシリル様に、不安が募る。もしかしてすっぽかされたのかも…


すると、使用人からシリル様の来訪を告げられた。


「すまない、遅くなった」

慌てた様子もなく入ってきたシリル様を見て、心が曇る。すまないと思うのならもう少し態度に出してほしい。


お茶会中も相変わらずずっとにこにこしていて表情が読めない。

この人は本当に、私を愛してくれているのだろうか。

ふと、不安になる。


「…レベッカ嬢?」

物思いに沈みながら適当に生返事をしていた私を、シリル様が訝しむように見つめる。


「何か、悩みがあるのか?その、俺で良ければ、話を聞くが…」


貴方のことで悩んでいるのだから、貴方に相談できるわけがないでしょう。

そう心の中で呟く。


「いえ、結構です。シリル様には話せません」

つい本音が出てしまった。


「…もしかして、俺に関係することだからか?」

「さあ、どうでしょうね」


わざと突き放すように返事をする。そこまで分かっているなら自分で気づいてほしい。


「とにかく、大丈夫ですから」

「そ、そうか、分かった…」


さて、セシリア様から鈍感と言われているシリル様だけれど、自分で気づくことができるかしら…?

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