第36話
夕食の後、セシリアに紅茶を淹れて持って行く。
本来ならば使用人の仕事だが、俺が頼んで手ずから淹れさせてもらっている。
シスには最高のお茶を飲んでもらいたいからな。
もちろん、使用人の淹れた紅茶が美味しくないと言っているわけではないが、俺は独占欲が強いのだ。
認めよう。あの食堂事件(俺の中ではそう呼んでいる)ではっきりした。俺はシスを独占したいのだ。だから他の奴を目の敵にしていた。
そう、していた。過去形だ。今はシスの気持ちが大切だと分かったので、嫉妬で物に当たりそうになっても我慢している。
だが二人きりのこの時間は、誰にも奪われたくない。
そういうわけで、夕食後はシスの部屋に行くのがすっかり日課と化している。
「お兄様、最近レベッカお義姉様とはどうですの?」
シスの突然の質問に、俺は戸惑った。
「どうって、今まで通りだけれど」
「本当に?」
シスに詰め寄られて暫く思考する。
定期的に茶会もしているし、話す内容も大体同じだし、着ている服も一緒。
うん、いつも通りだ。
「そうですか…」
確信を得て頷くと、シスは残念そうに眉を下げた。期待に沿った返事は出来なかったらしい。
「じゃあ、レベッカお義姉様のこと、どう思っているのですか?」
これまた漠然とした問いだ。
「大切な婚約者だ。格好良いし可愛いし、あと賢いし、伴侶として申し分ない」
…これであっているのか?分からない。答えのない問題を出された気分だ。
「お兄様がレベッカ様を大切に思っていることは伝わりましたわ…」
やはり残念そうだ。やけに大切に、のところを強調しているな。何なんだ?
先程のセシリアの言動が気に掛かりながらも切り替えてレオナルドのところに行く。
しっかりと、ノックを3回。
「レニー、シリルだ。入るよ」
「兄上、どうぞ」
アークライトは王国派筆頭の公爵家。何かあってからでは遅いのでこうやって名乗るようにしている。
客人であれば侍女や従僕に受け答えをさせることもあるが、家族なので直接だ。
勉強机の前にちょこんと座るレニー。ああ、今日もなんて可愛らし… はっ!いけないいけない、ここは冷静に、兄として振る舞わなければ。
「勉強か?」
「はい、今日の復習を」
「そうか、偉いな」
頭を撫でてやると片目を瞑りながら頬を緩ませる。
ああもう可愛いっ!可愛すぎる!今すぐ抱きしめたいっ!
だが兄として、ここはぐっと堪える。
「僕が兄上より賢くなったら、僕がこの家を継ぐことになるので覚悟してくださいね」
おお、言うようになったな。
「ふっ、可愛くないな」
と、言いつつ心の中では弟の成長に感極まっている俺であった。
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