第35話

「シリル、オスカー、今日の放課後、茶会をしよう」

ユリウス殿下の唐突な発言に、アーウィンと顔を見合わせる。


茶会を”しよう“とはいささか強制するような言い回しだが、彼は第一王子だ。たとえ遠慮がちであっても、お誘いを断るわけにはいくまい。


「茶会、でございますか」

「ああ、たまにはこのメンツで寛ぐのも良いのではと思ってね」


「光栄にございます」

「喜んで出席させていただきたく存じます」

それぞれ言葉を返すと、殿下は満足そうに微笑んだ。



放課後、指定の中庭に向かう。

といっても、三人とも同じクラスなので連れ立って行くことになるが。


もちろんノートン嬢の誘いは断った。

第一王子主催の茶会をすっぽかして子爵令嬢ごときと遊ぶほど、俺は常識に欠けていない。


「シリル、最近ノートン嬢と仲が良いみたいだね」


王子がそのノートン嬢の名を口にした。

どう言う意味だ?質問の意図が掴めない。


「ええ、まあ」

微笑を崩さず曖昧に答えておくと、殿下は揶揄うような笑みを浮かべ、アーウィンは相変わらず無表情で俺を見た。


「しかも放課後、毎日会っているそうじゃないか」

「っ、申し訳ございません。あのような者と…」

しまった、殿下の耳にも入っていたか。俺を咎めていらっしゃるのだろう。


頭を下げると、暫しの沈黙の後、ふっと吹き出す声が聞こえた。

「いやいや、そうじゃなくて」

「?」


ではどういうことだろうか。

見当がつかず顔を上げると、殿下は面白いものを見つけた、というような顔をしていた。


「君がそこまで入れ込むんだ、私も彼女のことが気になってね」


「…お話されるのですか」

できれば近づいてほしくないのだが。

「いいや別に。少し気になっただけだよ」


本当に、気になっただけなら良いのだが。俺の知らないところで会われては困る。あの女からは怪しいにおいがするのだ。


「そういえば、もうすぐ学園祭だな」

「1ヶ月後に迫っておりますね」

「もう出し物は決めたか?」


学園祭。1年に1回ある王立学園の催し物である。

前世で言うところの文化祭だ。


毎年志願者が食品やら娯楽施設やらの出し物をし、祭りを盛り上げる。


「いえ、私などは人々の目を楽しませるような特技もございませんから」

勉強くらいしか取り柄がないからな、と苦笑する。自分で言っていて悲しくなるな。


「オスカーは?」

「いえ、自分も決めておりません」


「…」

「…」

沈黙が訪れる。


ここ数日共に過ごしてきて、アーウィンは口下手であることが判明した。

彼は必要最低限の受け答えしかしない。


会話のキャッチボールというのだったか。話題を膨らませる。それが苦手なのだろう。

俺とは少し毛色が違うが、同じコミュ障仲間として親近感を覚えた。


そんな沈黙を、俺は破る。

「殿下は何か催されるのですか?」

「ああ、私は学術研究の方でね」


学園祭は王立学園の学術、武術、魔術の教育に関する発表の場も兼ねている。

流石、王子は代表で発表するようだ。


「何に関する研究なのでしょうか」


好奇心から尋ねると、王子は悪戯っぽく目を輝かせて

「それは、当日のお楽しみだな」

とウィンクした。


わあ、イケメン。格好良すぎて男の俺でもキュンと…こないな。



「これからも定期的に茶会を開こうと思う。そのときは招待するので是非来てくれ」

「ええ、もちろんでございます」

「願ってもないことです」

二人揃って承諾の返事をすると、殿下はまた満足そうに微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る