第26話

教科書を配られた後、授業が始まった。と言っても、初日なので簡単な導入だけだ。


…と、担任は言っていたのだが。


歴史の先生がガチ勢で初日から普通に授業するし、しかもそのスピードが速いので、俺の頭はパンク寸前だった。


やっと終わった〜っ!と伸びをしながら何というわけもなく隣に目をやると、ユリウス殿下が肩を回しているのが見えた。殿下もお疲れのようだ。



放課後、殿下と別れて帰路に着く。護衛と言ってもそれは名目みたいなもので、実際は学友として仲を深めることが目的なのだから、俺の仕事は校門までなのだ。

帰りはどこからともなく現れた殿下付きの騎士に任せる。



雑踏の中を、家に向かって歩く。

「あ、あの、シリル様」

「っ!?」

ぞくり、と悪寒が全身を駆け巡る。

なんだ、この感じは。


恐る恐る振り返ると、エリカ・ノートンがいた。周りは皆集団で話しているので注目されるようなことはない。

「あ、ああ、なんだ」

居心地の悪さを感じながらも必死に表情を取り繕って返事をする。


「その、わ、私と、お友達になってくれませんか」

告げられた言葉とともにこちらへ向けられた視線に、再び背筋が凍る。

いけない、この女と関わっては碌なことにならない、と第六感が警鐘を鳴らす。


俺が黙っていると戸惑いと受け取ったのか、彼女は多少吃りながら弁明を始める。


「そ、その、私、入学式で見たシリル様に一目惚れして、だから、その、仲良くなりたいなって、」


そんな健気な彼女の言葉は俺の耳に届いていない。この悪寒の正体がずっと気に掛かっていた。


思い当たるとすれば、彼女の目、だろうか。こちらに視線が向けられた時にぞくりと来た。


注意深く彼女の目を観察する。


(っ、魔力か!)


その目から、変な波長の魔力が出ていた。

それが分かった瞬間、俺は自分の体から魔力を流して相殺した。


この技術は俺の魔術の師、ローガン先生に特訓してもらって身につけたものだ。


本人曰く『儂ですら数十年かかったものを経ったの3年で身につけるなんてずるい!』だそう。

つくづくこの体は優秀だ。

どこかに神がいるのだとしたら、生まれ変わらせてくれたことに感謝しよう。


「あの、お友達になって、もらえますか…?」

あざとい表情で見上げてくる。


丁度良い。最初に見た時の既視感といい、今、目から垂れ流している魔力といい、気になることが多々ある。

こいつがそんなことをする目的も知りたいしな。

友人という名目で接触の機会を得られるなら好都合だ。


「分かった、君と友達になろう」

柔和な笑みを意識する。

彼女は花が咲いたように笑顔になった。


「わあ、ありがとうございます!これからよろしくお願いしますっ!」

「ああ、よろしく」

観察対象として、な。

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