第27話
「シリル、おはよう」
「っ、おはようございます。ユリウス第一王子殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」
びっくりした…急に名前で呼んで来たな。まあ多分、そういう人なのだろう。
それにしても…
深く折り曲げた腰を戻し、目の前の微笑を浮かべるイケメンを眺める。美形なだけあって破壊力が半端じゃない。キラキラしていて眩しいくらいだ。
「見て、シリル様とユリウス殿下よ!」
「やっぱりお美しい…お二人が並んでいらっしゃるとさらに輝いて見えますわね…!」
最も、この俺、シリル・アークライトも美形の範疇に入るらしいのだが。
父もそこそこイケメンだし、我がアークライト家も王家の血筋、高い顔面偏差値を受け継いでいるのだろう。こそこそと女子たちが盛り上がっている。
ちなみに、ユリウス殿下とは
アークライト家は祖父の時代から代々宰相を務めているのだが…
大丈夫か?このまま行くと遠縁の親戚とかにならないか?
前世で言うところの、いることは知っていたけれど、親の葬式で初めて顔を見たレベルの。そんな奴に政治を任せて大丈夫なのだろうか、この国は。
なんにせよ、俺は殿下の護衛だ。あの女のこともあるし、今後の立ち回りを考えなければならない。
情報を仕入れるため出来るだけ接触は多くしたいが、あいつを殿下には近づけたくない。
となると…
「シリル?」
殿下に名前を呼ばれて我に返った。
「申し訳ございません、少々考え事を」
「何か悩みでも?」
「いえ、殿下のお手を煩わせるようなことではございません」
むしろ話さない方が良いだろう。興味本位であいつに近づかれては困る。
これ以上詮索しないでください、という意味を込めてにっこりと微笑むと、殿下もまた微笑み返した。了承と受け取って良いだろう。
周りからきゃあっと歓声が上がる。本当に、すごい人気だ。
教室に着くと、アーウィンが先に来ていた。
互いに挨拶を交わし、席につく。
不自然でない程度に視線を動かしてクラスの面々を確認する。
なるほど、やはり王国派の貴族ばかりだな。ユリウス殿下がいらっしゃる時点で予想はしていたが…
この国には、3つの派閥が存在する。
一つは王国派、もう一つは皇国派、そしてそのどちらでもない中立派だ。
最近まで我が国は、隣国である皇国と戦争していた。
通常は戦勝国が負けた国を支配するのだが、王国はそれを拒んだ。
皇国としても、今すぐの侵略を望んでいるわけではなかった。
そこで皇国は、王家に皇国の貴族を嫁がせることを条件に、王国の自治を認めたのだ。
その嫁いだ側室から生まれたのは第二王子殿下。
我らがユリウス第一王子殿下は正妃から生まれた由緒正しき王家の血筋だ。
他にも御子は何人かおられるが、王位継承権が高いのはこのお二人。
故に、王国派は第一王子派、皇国派は第二王子派とも呼ばれたりする。
クラスメイトは把握しておいて損はないだろう。
昨日は周りに人が集まりすぎてそれどころではなかったからな…
にこにこと媚びへつらう輩を思い出して少し嫌な気分になる。
そのまま視線を窓際へやると、ライトグリーンの瞳と目があった。
ピンク髪を風に靡かせているのは、今一番会いたくなかった人物だ。
うわあ、少し嫌な気分だったのが一気に不快になった。
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