第25話
ふうっと深呼吸をして気持ちを整える。心臓の音がいつもよりうるさい。
ぎこちない足取りで掲示板まで歩き、壁に貼られた文字の羅列の中から自分の名前を探す。
「えーっと…あ、あった」
左から4列目の一番上に名前があった。
Bクラスだ。最初の方に名前があってほっとする。
実力至上主義の方針に違わず、クラス分けは成績順である。
といっても、派閥や家同士の仲も考慮されるので完全な成績順にはならないが。
俺の場合はアーウィンと共にユリウス殿下の護衛なので、意図的に同じクラスにされている。
「シリル様〜、何クラスでした?」
「Bクラス」
「くそっ!負けた〜!」
「ふふん」
アルはCクラスだったようだ。
まあ、アルファコースとベータコースでは人数も違うし、厳密には勝負はつけられないのだが、気分が良いので良しとしよう。
文字列を辿っていくと、殿下、アーウィンの名を見つけた。
さらに視線をずらしていくと、見覚えのある名前を見つける。
エリカ・ノートン。
庶民でありながらその魔力量の大きさ故に子爵家に養子入りし、異例でこの学園への入学を許された存在。
入学式のレイモンド生徒会長のお話でもちらっと出てきたし、最近記事にもなっていたので覚えている。
この国では王族とその血を持つ王侯貴族が高い魔力を有している。平民では、せいぜいその半分の量が平均といったところだろう。
だが稀に、平民でも高い魔力量を持って生まれてくる子はいる。そういった場合、どこかの貴族の養子となり、未来ある者として国のために励むことが求められる。
その裏には、魔力を狙った誘拐や強姦を防ぐために信頼できる貴族に預ける、という目的もあるのだが。
そしてこれが新聞にまで取り上げられた所以だが、今まで王立学園は平民の入学を許していなかった。それが今回、彼女は特例で入学が認められたのだ。
『これは画期的なことだ。これを機に平民全体とまではいかないが、爵位を持った成り上がりの平民も学園に通うことができるようになるかもしれない。』
と庶民向け新聞【タイムリー】は報じた。
一方で貴族の間では、身分制度が曖昧になり、貴族の血が薄れることで国の弱体化に繋がるのではないかと不安の声も上がっている。
と、こちらは貴族向け新聞【クロノス】の批評だ。
教室につき、媚を売ってくる連中を適当にあしらっていると、カラカラと音がしてドアが開いた。
何気なくそちらに視線をやると、入ってきたのは一人の女子生徒だった。
この国でも珍しいピンクブロンドの髪は、否が応でも目立つ。
そして彼女は小柄で愛らしく、顔も整っているので中にはドキッとしている男子もいるようだ。
まあ、俺はセシリアとレベッカ嬢以外の女には興味がないので関係がないが。
だが、なんだ、この既視感は…?
既視感の正体を確かめようと目を凝らす。
「…シリル様?」
歩く姿を目で追っていると、群衆の中の一人に声をかけられる。
「気になるんですか、あの平民が」
彼女は周りの視線を気にしながら、一番後ろの端の席に座った。
「まさか。ただ少し、違和感があっただけだ」
今話しかけてきた奴。平民、というときの口調に悪意を感じた。
彼女に対して思うところがあったとしても、露骨に態度に出すのはNGだ。
友人としては付き合えないな。
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