第23話

最近、コーヒーとかいう物が流行っているらしい。

だが俺は生粋のお茶派だ。コーヒーなんて絶対に飲んでやるか。

だいたい、何だあの黒い液体は。泥水か。


お茶派といっても、紅茶だけじゃない。

ハーブティーやローズティーだって、価値は認めている。決して排他的な訳ではない。

だがコーヒー、あれは訳が違う。お茶は茶葉から淹れるが、コーヒーとやらは豆を使うというではないか。豆などからお茶のような深い味わいがするとは思えない。


しかし、今目の前にいる我が妹、セシリアは美味しい美味しいと飲んでいる。

普段滅多に顔を綻ばせない父上も頬を緩ませる始末だ。


…そんなに美味しいのか?少し気になってきた。

いやいや、俺は筋金入りの紅茶愛飲家だ!コーヒーなんかに目をくれてやるかっ!

「こんなに美味しいのに」

…父上、それ、苦手な食べ物がある人に言うと嫌われますよ。



「いらっしゃい、レベッカ嬢」

「シリル様、お邪魔致します」

レベッカ嬢と会う時は、基本的にどちらかの家で茶会をする。今回は俺が彼女を招く側だ。

いつも通り、中庭にエスコートする。流石に自分の家なので方向音痴は発動しない。

お茶を淹れて席に着くと、俺は話し始める。

「最近、世間ではコーヒーとやらが流行っているらしいな」

「え、ええ」

「実は俺の家族も飲んでいるんだが…」

それから俺は愚痴を言うかのようにレベッカ嬢に話した。

家族は美味しそうに飲んでいること、俺が紅茶愛飲家であること、コーヒーなどは認めないこと。

だが、話しているうちにレベッカ嬢の顔が暗くなっていく。返答も何故だか歯切れ悪い。

レベッカ嬢なら分かってくれるよな、と質問を投げたところ、ついに黙り込んでしまった。

「…どうしたんだ?」

「じ、実は、ですね…」

躊躇いがちに言う。

「本日私が持ってきたのは、コーヒー、なのです」

「っ!」

何だって?あの無類のお茶好きのレベッカ嬢がコーヒー?

俺の唯一の理解者だと思っていたのに!

「くっ!貴様も寝返ったかレベッカ嬢っ!」

「い、いえそんなつもりは」

「この裏切り者め!全世界のお茶好きに謝れっ!そして吐くまで茶を飲んで詫びろ…」

「ちょっ、目がマジ!怖い怖い!」

「君なら分かってくれると思っていたのに…ぐすっ」

「いや情緒どうしたんですか…私は、試しに飲んでみるくらいなら良いんじゃないかと思いますよ」

レベッカ嬢は呆れ顔から真面目な顔になって言う。

「嫌だね。あんな泥水、飲んでやるか」

ふん、と鼻を鳴らす。

「頑固ですね…」

「頑固で何が悪い」

「そんなに頑固だと、私は貴方を軽蔑します」

レベッカ嬢が凛とした声で言う。しかも本当に軽蔑した目で見てくる。

嫌だ。大好きなレベッカ嬢に、軽蔑はされたくない。

「…悪かった。一度、飲んでみるよ」

俺は渋々腰を下ろした。

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