第22話

「っ!」

教官に足を引っ掛けられ、バランスを崩した俺は後ろに倒れ込んだ。


「試験終了だ」

喉元に切先を突きつけられる。

「参りました…」


差し出された手を取り立ち上がる。

「ありがとうございました」

また同じミスをした。戦闘中に足元が疎かになるのは俺の悪い癖だ。


「アル」

人混みの中に従者を見つけて声を掛ける。

「シリル様」

アルは恭しく頭を下げた。



「どうだった?」

帰り道、試験について何気なく聞いてみる。

「…まあまあの出来です」

「そうか、でも魔術はすごかったけれどな」

「シリル様には及びません」

「…」


なんかそっけないな。いつもならここで『このくらいは朝飯前ですよ!』とかドヤ顔するのに。


「記述の方は?」

「多少点は落としましたが、八割以上の点数であると推測されます」


『であると推測されます』って…


「やっぱり変じゃないか?」

「何でございましょう」

「それ、その口調。いつもみたいにもっとくだけた口調でいいのに」

俺ら幼馴染なんだし、と言うとアルは、いきなり狭い路地へ俺を連れ込んだ。


「っ、何だっ!」「しっ」

驚きと戸惑いで声を荒げる。が、すぐに口を塞がれてしまった。

アルの気迫に押し黙る。


何をされるのかとドキドキしていると、目の前の少年はふうっとため息をついた。

「すみません坊ちゃん、俺もあんな喋り方はしっくり来ないというか、ものすごーくやりにくいんですが…」


良かった、いつものアルだ。


「ここは外ですから、あくまで俺は貴方の従者として振る舞わないといけないんで

す」


なるほど、人目を気にしていた訳か。まあ確かに、いつもの話し方だと傍目に見れば失礼な下僕に見えるんだろうな。


「俺も貴方とは気楽な関係でいたいんですが、これからは従者として、きちんとした言葉遣いをしなければならないんです…あっもちろん、プライベートではシリル様が良ければ、気楽な感じで話がしたいと思っています」


「なるほど、そういうことなら分かった」


これから人前に出る機会は多くなる。その時は幼馴染としてではなく、主従として振る舞うことが求められるだろう。早めに慣れておく必要がありそうだ。


「今はすっげー違和感だけどな」

「俺もです」

二人そろって苦笑した。

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