第19話
「シリル・アークライトと言ったか」
左隣から声がする。想定の範囲内、というかこちらからお声掛けしようと思っていたので冷静に受け答えする。
「ユリウス第一王子殿下にご挨拶申し上げます。先程は目礼で失礼致しました」
跪いて最敬礼をする。
ユリウス・バートランド。
この国の第一王子。国王と正妃の間に生まれた正当な王家の血を引く子だ。金髪碧眼、見る者を魅了する美しい容姿。謙虚で民を思い、じきにこの国を治める者として日々励んでいる。まるで絵本に出てくる白馬の王子様だ。
だが裏の顔は分からない。警戒しろ、甘言に騙されるな。
「そう畏まらなくて良い。ここでは身分は関係ないのだから」
人目があるのでまだ表の顔でいるようだ。もしくは裏の顔もこれなのか…
「学園では殿下の護衛として、大半を共に過ごすことになります。よろしくお願い致します」
立ち上がって礼をする。もちろん柔和な笑みも忘れない。
「ああ、よろしく頼む」
護衛、というのは建前で実際はお目付け役のようなものだ。国王と宰相の関係もそう。
王が暴走しないように見張ったり、政治能力のない王に代わって国を運営したりする。それが宰相だ。学園での関係はその練習ということだろう。
「新入生代表のお言葉、誠にご立派でございました」
「そうか、君のような聡明な者に認めてもらえて光栄だな」
「ご謙遜を。殿下のご英明には皆が驚嘆していることでしょう」
「そうか、それならば私もその期待に応えねばならないな」
「ええ、でしたら私も殿下をおそばでお支えしたく存じます」
「シリル様、お迎えに上がりました」
会話が途切れたタイミングで名前を呼ばれたので振り返ると、アルがそばまで来ていた。
おお、こちらもナイスタイミング。
入学式の事以外、話題が思いつかなくて困っていたのだ。さっさとこの場を離れよう。
いずれにせよ、ユリウス王子とは今後関わることになるのでその時に親睦を深めれば良いだろう。
「ああ、行こうか。では殿下、私はこれで失礼致します」
「ああ、また学園で」
「明日はクラス分け試験だってな」
馬車の中で、アルに話かける。
「そうですね。…まあ、どうせ僕はシリル様とコースが違うので一緒のクラスになれないことは確定ですが…」
残念そうにしゅんとする。
「そんなに俺と一緒がいいのか?」
「そうですよ。僕も長男であればアルファコースだったのに…今回だけは兄を恨みます…」
そういうことか。頭の良いアルのことだ。ベータコースでは満足しきれないのだろう。より高度なことが学べるアルファコースに憧れを持っているのか。
「そう気を落とすな。別にベータコースでもアルファコースと同レベルの授業は受けられるのだから」
ベータコースでは、選択制でアルファコースの授業が受けられるようになっている。
「鈍感…」
護衛騎士が呟いた。
「ええ、本当に。鈍感ですよね…」
いやだから、誰がどう鈍感なんだ。
※誤字を修正しました。2024/12/2 22:08
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