第13話
レベッカ嬢は立ち上がるとコンロに火をつけ、お湯を沸かし始めた。
てきぱきと手を動かしてお茶を淹れる。こういう姿を見ていても、凛としていて格好いいと思う。
「できました」
カップから薔薇のいい香りが立ち上ってくる。
「いただきます」
少し口に含み、舌の上で味を吟味する。香りが鼻を抜けていく。
「美味しいです。ローズティーは甘すぎると思って避けていたけれど、これくらいなら飲めそうだ」
「お口にあって良かったです。こちらは紅茶の茶葉に少し薔薇の花弁が混ぜてあります。薔薇の花100パーセントのものは甘みが強いですから、好みが別れますよね」
レベッカ嬢の言葉に、僕は大きく頷く。
僕はあんなに香りの強いのは好きではない。香水がきついのと同じで長時間嗅いでいると吐き気がしてくる。
セシリアが最近流行っているというから一度飲んでみたが、あれは僕の好みではなかったようだ。一方、セシリアは美味しそうに飲んでいた。
このローズティー、どこ産なんだろう。今度買ってみようかな。
「紅茶は他商会から取り寄せていますが、薔薇はうちの領地で取れたものなんですよ」
僕の考えていたことが伝わったのか、レベッカ嬢が微笑んで言った。
まじか、しっかり自社製品紹介してるじゃん。
僕も今度、アークライト産の何かを持ってこよう。
レベッカ嬢は席についたタイミングで口を開く。
「シリル様、私のことは呼び捨てにしていただいて構いません。それと敬語も不要です」
「そっそんな、いきなり呼び捨てになんてできません!」
いきなり何を言い出すんだ。流石に距離を詰めすぎだと思う。
「今日は、お互いの仲を深めることが目的なのでしょう?」
「うっ」
僕が言い出しっぺだから否定できない…
だが百歩譲って敬語を外すのはいいとして、呼び捨てまですることはハードルが高い。
「そもそもシリル様の方が立場は上ですし」
「うっ」
ごもっともだ…また何も言い返せない。
「わ、かりました…けど呼び捨てはもう少し経ってからにさせてください。…じゃなくて、させてほしい」
「そうですね。呼び方を変えるのはもう少し先でもいいかもしれません。それこそ、結婚が現実的になってきた頃とか」
この国の貴族は18歳でデビュタントを迎え、婚約者と結婚したり夜会デビューしたりする。あと5年以上は待ってもらえるようで安心する。
それから小麦の値段が上がってきているだの、どこそこの紅茶が美味しいだの、世間話をしてお茶会は幕を閉じた。
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