第12話

さて、と自分の分のお茶を淹れて席につく。

うん、美味しい。温度も丁度いい。それより今日は、こちらが本題だ。


「レベッカ嬢、お茶以外に何か好きな物はありますか?」

いつも通りお茶の話をされると思っていたのだろう。彼女は目を丸くしている。


「実は父に、お茶の話以外もしろ、と忠告されまして…」

「そうなんですか。私も、同じようなことを言われました」

レベッカ嬢は僕につられて苦笑する。


しかし僕は本気だ。真剣な表情を作る。

「ですから今日は、お茶の話は無しで。貴方ご自身のことを、聞かせてください」

レベッカ嬢はしばらく黙った後、頷いた。

「分かりました。ではつまらないでしょうが、私の身の上話でも聞いていただきましょう」


レベッカ嬢は僕より一つ年上で、ローゼンバーグ辺境伯の一人娘だ。


ローゼンバーグ家はなかなか子に恵まれず、後継問題は貴族の中でも有名な話である。このまま女性であるレベッカ嬢に爵位を譲るのか、それとも力の強い、武に長けた者が婿入りして家を継ぐのか。


色々な憶測や噂が飛び交う中で決められたのが、僕とレベッカ嬢の婚約だ。

相手、つまり僕は宰相の息子で、別にすごく力が強いわけでも武術に長けているわけでもない。しかも婿入りではなくレベッカ嬢の嫁入り、だ。


これもまたすぐに話題になり、


辺境伯は一体何を考えているんだ?こんなヒョロいのに国境守れるわけねえだろ、頭おかしいのか?

など痛烈な批判と、


もしかして、宰相文官辺境伯軍人が協力して国を守る、みたいな?そうだったらありがとう、宰相様万歳!

という肯定的な意見に二分した。


ちなみに僕は後者を支持している。前者は、僕が努力して力をつける可能性を加味していないので気に入らない。


レベッカ嬢も世間の声を気にしているようで、この家を継ぐために懸命に努力しているのだという。


意思は固まっているだろうか。そう問うてみたところ

「ええ、この家を継ぐのは私しかいませんから」

と言い切った。


だが、表情は少し苦しげに見えた気がした。


「…僕も、この家を継ぐつもりで武術を極めようと思います」

強めの口調で訴える。


女性が家を継ぐことはあまりない。世間の目も好意的なものではないだろう。

彼女は多分、それを気にしている。だったら僕が後継候補になってもいいと思う。彼女が嫌だと言った時の保険として。

今からでも努力すれば、剣術ももっと上手くなるだろう。


「私はもう決めたんです!この家を継ぐ、と」

「だけど、まだ迷っているんでしょう?」

ムキになっていることがその証拠だ。


「…これは当家の問題。口出しは不要です」

「僕はどうせ強くなれない、と。そういうわけですか」

「そのようなことを言っているのでは」

「だったらなぜそこまで、継ぐことにこだわるんです?僕を信用していないんですか?」

「…」

レベッカ嬢は黙ってしまった。


半ば強制されるような形で当主になって、周りから白い目で見られることは避けたいだろう。そのためにいつでも僕に代わっていい、頼っていいと言っているのだ。僕なりの気遣いのつもりだったが…


「すみません、今のは言い方が悪かったですね。ですがレベッカ嬢、僕は貴方がこの家を継ごうと継がなかろうと、剣術の鍛錬は欠かさないつもりでいます。守られてばかりには、なりたくないので」


嫌な空気になってしまった。切り替えて笑顔で、努めて明るく声をかける。

「さあ、今度はレベッカ嬢の番です。僕は貴方の淹れるお茶、楽しみにしているんですよ」



※寝る前に重要なルビを忘れていることに気づいたので直しました。 2024.9.6 0:15

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