第11話
今日は月一回の婚約者との面会の日。お茶の葉が入った箱を大事に抱えて馬車に揺られる。
レベッカ・ローゼンバーグ。ローゼンバーグ辺境伯家の長女が僕の婚約者だ。
僕はお茶が好きでアフターヌーンティーは欠かさないのだが、彼女もお茶にはこだわるらしく、出会った瞬間に意気投合した。
それからは月一回の面会の際に、互いにおすすめの茶葉を持ち寄ってお茶会をするのが習慣となっている。
ただ、婚約者として仲を深めるのが目的なので、もう少しお茶以外の話もしろと父上に呆れられてしまった。
「シリル・アークライトだ」
門番にアークライト家の紋章が入った懐中時計を見せる。
「伺っております」
外で控えていた執事に応接室へ案内される。
レベッカ嬢、今日はどんなお茶を持ってくるだろう。
そわそわしながら待っていると、ドアが控えめにノックされる。
どうぞ、と促すと侍女がドアを開け、スレンダーな体型の女性が亜麻色のポニーテールを揺らして一礼した。
「ご足労いただき感謝致します。シリル様におかれましてはご機嫌麗しく」
「こちらこそ、お会いできて光栄です。レベッカ嬢」
双方挨拶を終えたところで僕は立ち上がる。
「では、共に庭へ参りましょう」
ドア付近に近づき、レベッカ嬢に手を差し出す。
彼女が手を乗せたのを確認して一歩部屋から出た。が、その瞬間に動きが止まる。
…えーっと、庭はどっちだったっけ?前に来た時は執事が案内してくれたんだが…
よし、多分左だ!
決心して左に足を踏み出す。レベッカ嬢がついてくるのが一足遅れて、嫌な予感がする。
「あの、シリル様、お庭は右ですよ」
ああ、やっぱりか。
レベッカ嬢が苦笑しながら先導してくれる。エスコートするはずが逆に道を教えられてしまった。
僕は生来、方向音痴なのだ。このやりとりも慣れたもので、彼女は苦笑しながらも嫌な顔一つしないで案内してくれる。この人が婚約者で良かった。
二人で庭のガゼボに座る。
侍女がささっとお茶菓子を用意する。
茶会では身分の高い者から順にお茶を振る舞うことが決まっているので、最初は僕からだ。
エスコートでは負けたが、お茶の方は負けない。
僕らは二人とも紅茶をよく飲むが、今回は思考を変えてハーブティーだ。お茶の世界は広いということを思い知らせてやる。
コンロという魔道具に火をつけ、お湯を沸騰させたらすぐにポットに移してハーブの成分を抽出。その間に残りのお湯でティーカップを温めておく。
体内時計で6分ほど冷ましてからカップに注ぐ。
「どうぞ」
まずは相手の感想を聞く。
「これは、ハーブティーですか」
「ご明察」
「いい香り。では、いただきます」
上品な仕草で一口飲む。
「美味しい。すーっとした香りの中にほのかな甘みがある。お茶といえば紅茶が至高と思っておりましたが、ハーブティーも悪くないですね」
「お気に召したようで何よりだ」
※長くなりそうだったので丁度いいところで切りました。
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