第10話

◇◇◇◇◇

3歳の時、婚約者が決まった。この国の第一王子、ユリウス殿下。公爵家の娘なのだから、仕方がない。自分は恋愛をして結婚することなどできないのだろうと幼いながらに思った。


顔合わせの日。

「初めまして、ユリウス・バートランドです」

一目惚れだった。優しく微笑んで挨拶する彼を、かっこいいと思った。


殿下を愛することなど一生ないと思っていた。これは政略結婚なのだから。

だが出会った瞬間に愛してしまった。

それからは婚約者として月一回の面会、散歩に誘ってくれたりもした。


「この花はカランコエといって、花言葉は『たくさんの小さな思い出』なんだよ」

これからたくさん思い出を作っていこう、と遠回しに告げる。なんてロマンチックなのだろうか。


「君といると落ち着くんだ」

そう言って時々見せる無垢な笑顔が可愛らしい。


隣にいる時間を重ねるにつれ、想いは膨らんでいった。



「今では殿下のことを、誰よりも愛しておりますの」

目を細める。ここにはいない殿下を思い浮かべているのだろう。ミルドレッド嬢もこんな顔をするんだな。


「本日はお付き合いいただきありがとうございました」

「こちらこそ、楽しい時間でしたわ」

ミルドレッド嬢と別れて二人、馬車に乗る。


「…」

「…」

どうしよう、初恋の話、こちらから切り出すべきだろうか。いや、下手に触れると忘れてもらえないかもしれない。


「…今日は誘ってくれてありがとう、楽しかったよ」

とりあえず当たり障りのない話題を振る。


「わたくしもです」

まだ初恋を打ち明けた恥ずかしさが残っているのか、応答がそっけない気がする。


「また機会があれば誘ってほしい。これからは君のために時間を作りたい」

「よろしいのですか?」


期待に満ちた目線が僕に向く。機嫌は直ったようだ。

…なんかチョロくないか?ちょっと心配になる。


「ああ、むしろ今までが少な過ぎたんだ、セシリアと関わる時間が」

「やったあ!おにいさま大好き!」

馬車の中で抱きついてきた。セシリアはこういうところが可愛いのだ。公爵家の淑女としてはあるまじき行動だが。

護衛の騎士もその可愛さにほっこりしている。


「はは、セシリアは可愛いなあ」

そう言って頭を撫でる。

「もう、そういうところですよ」

いつもなら気持ちよさそうにするのに今日はなぜか不満げだ。


「どういうところ?」

本当に分からなくて首を傾げる。

「鈍感…」

護衛騎士が呟いた。どういうことだ。一体誰が何に鈍感なんだ。



※よくわからないが急に第十一話に飛んでいたので直しました…

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