第5話

「どうでしょうか」

「うーむ、長時間の外出となると学業がな…」


父上にセシリアとミルドレッド嬢と演劇を見に行きたいと伝え、時間が取れないか相談してみる。


僕は政治や領地経営の勉強の他に、剣の稽古も、魔法の勉強だってしないといけない。


一般的な演劇の上演時間は2〜3時間、移動も合わせると最短でも4時間はかかり、勉強が疎かになる。


もちろん全てこなせないこともないが、それだといつもと違うスケジュールになってしまい、教師に迷惑がかかる。剣の稽古がないセシリアが羨ましい。


「でしたら父上、こういうのはどうでしょう?」

僕ももう子供ではない。ただ外出したい、と我儘を言うつもりはない。


当日教わる予定の範囲を前倒しして教えてもらい、当日は早朝から自主勉強。

そしていつもの時間になったらテスト、採点してもらい合格点がでたら外出して良しとする。


もちろん家庭教師の給金は通常通りで。

教わることの多い剣や魔法はともかく、政治や領地経営の勉強は一旦教わればあとは反復学習で身につく。僕の努力次第ということだ。


肝心の担当家庭教師、カーター先生がこの場にいないのが難点だが。

「授業の時間を調整してもらうのも考えましたが、こちらの都合に付き合わせてしまっては申し訳ないですから」


あの人は定時上がりだからな、と苦笑する。

カーター先生は仕事の時間きっかりに来て、仕事が終わるとすぐに帰ってしまわれるのだ。

前世のには定時なんてものは存在しなかったが。


「どうでしょう、先生はいつもより仕事が少ないのに給金はそのまま、僕はテストだけ受けて演劇を見て帰ってきて、いつものように剣や魔法の稽古ができる」

「…睡眠時間は確保できるのか?」


僕の体の心配をしてくれているのだろう。僕の父は表情の変化が少ないが優しい人なのだ。


「…6時間は捻出します」

当日の開演時刻と勉強、準備の時間を逆算して答える。全て上手く事が運べば、だが。


「そうか、なら良いが」


「では先方の許可が次第、報告する」

「ありがとうございます」


礼を言って下がろうとしたところ、

「6時間寝ていなかったら使用人にベットに引き摺り込ませる」

この世で一番優しい脅しが来た。

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