第दो話 ナン・オカワリスルカの罪状
勇者『ナン・オカワリスルカ』は投獄された。
王に毒を食わせた罪である。
ルミエッテ王国・王城・謁見の間。
「ナン……ナン食べたい……さくもちふわっ……ナンめっちゃ食べたい……焼きたてナン……」
王は幻覚を見て、謁見の間をさまよっていた。
同時刻、ルミエッテ王国・王城・宮廷魔術師詰め所。
「王は狂ってしまった。
宮廷魔術師第四位階『イルミア』よ、未だに、王を狂わせた毒は分からぬのか」
「申し訳ありません、第一位階『エイドス』卿」
私はただ、苦悩する上官『轟炎の』エイドス卿に頭を下げるばかりである。
「勇者『ナン・オカワリスルカ』が食べさせたものが原因であることは間違いありません。しかし、いくら王の食べかすを調べても、原因がつかめぬのです」
「報告せよ」
「はっ」
私は、調査の結果を卿に報告した。
「小麦と油を練り、焼いたものでございます」
「……それだけか」
「いかにも」
「未知の毒物も、邪悪なる魔力も検知されぬというのか。イルミア」
「いかにも」
エイドス卿は、目に見えて落胆した。
「イルミア」
「……はい。エイドス卿」
「魔法学院で薬学研究に没頭し、魔術をおろそかにしていたお前を救い出したのは、誰だ?」
「はい。エイドス卿でございます」
「貴族の女でありながら、政略結婚を拒否したお前を、侯爵の計略から救ったのは誰だ?」
「はい。それもまた、エイドス卿でございます」
エイドス卿は怒りの魔力をたぎらせた。
炎で出来た蛇が、宮廷魔術師詰め所の中を怪しく舐める……触れれば消し炭になるであろう火力が、直接触れずに、おどすように這いまわるのである。
「では、我が期待に応えるのは、道理であるな」
「……はい」
エイドス卿は、炎の蛇を私の首に巻いた。
「直接、あの罪人に聞き出すのだ……王の病を、治す方法を」
私は、勇者ナン・オカワリスルカの牢獄に向かった。
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