異世界インド人 ~全人類にナン食わす~

@syusyu101

第एक話 ナマステ

 ルミエッテ王国地下14階、秘匿獄門儀式場。


「ナマステ」


 魔法陣の中心に、その男は立っていた。


 


 異世界から勇者を召喚することを目的として設置された、秘匿獄門儀式場。

 今まで数多くの異世界人を迎えてきた場所である。

 当然、儀式に臨む宮廷魔術師たちは、異世界人には慣れていた。


 ある時は犬。ある時はジャージのニート。ある時はさえないサラリーマン。ある時は高速道路からバイクで転移してきた美女。ある時は椅子。

 みょうちきりんな連中には慣れている。

 熟練の大魔術師たちが、ここに居た。


「ヘイ」


 だというのに。


「お客サン、ナン食べる?」


 誰も、その男の接近を止められなかった。




 儀式場を見下ろす玉座。

 グラヴァール・K・ルミエッテ国王陛下の眼前。

 魔法陣の真ん中に居た筈の男は、国王陛下の口に、何かを突っ込んでいた。


「ぶ、無礼者!」


 王の護衛が槍を突き出す。

 男は、「ナートゥ!」と叫んでそれを避け……ない!

 足で、槍を掴んだ。

 素足で、槍を掴み……「危ナイヨお客サン!」天井に、投げる!


 砕ける、天井。


 王城の地下14階。凄まじく地下にある獄門儀式場の天井が、一瞬にして砕け……日光が差し込んでくることに、私は気付いた。


 日光を受けて立つ、男。


 砂漠に沈む夕日を思わせる、褐色の肌。

 叡智もつ獅子をも圧倒するだろう、黒々としたヒゲ。

 つぶらな瞳。

 ターバン。

 ふんどし一丁で、合掌する、年齢が全く分からない男。


「もぐもぐ……ごくんっ! お、お主は……一体。何者なのだ……!?」


 口に突っ込まれたものを食べきった王が、男に問う。

 男は慈悲に溢れた瞳で、王に答えた。



「お客サン……ナン、おかわりスルカ?」



 これが、宮廷魔術師第四位階『蝕毒の』イルミア……私が目撃した景色。




 救世の勇者『ナン・オカワリスルカ』の、召喚の瞬間であった。

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