第18話 秘密結社アリス爆誕!
4時限目の授業が終わり、お昼になった。
いつもなら隣のクラスから ルカが弁当を持ってきてくれるのだが、あいにく僕のせいで風邪をひいてしまい来ることはできない。
アリスの提案で僕は、アリスと共に屋上でお昼を食べることになった。
教室で食べるとみんなに迷惑がかかるので、しぶしぶ了承する。
屋上に着くと、あの噂により僕たちが来たとたん、みんなそそくさと屋上を出て行ってしまった。
結局どこで食べても迷惑がかかるらしい。
「アリス……これでいいのか? 本当におまえは……?」
この現状に尋ねると。
「ん? まあ……よくはないけど、友と一緒にいられるなら、それでハッピーさ。だから他者などどうでもいい」
「あ、あっそ……」 (コイツ……いちいち恥ずかしい台詞を……。そういうのは、アメリアでは普通なのかねぇ。まあ、言いたくないが、僕もコイツといて満更でもないしな。こいつといるとハッキリいって迷惑だし、面倒だが……それ以上になんだろう? 落ち着く……悪くない……そんな感覚におちいる……なんでだろうな?)
疑問を抱きながら、アリスと共に屋上のベンチに座った。
そして持ってきたバックの中から『重厚な黒い弁当箱』を取り出し、僕の目の前に出した。
「はい、コレ」
「なんだコレ?」
「友に食べてもらおうと思ってね。生まれて初めて料理を作ったのだよ」
「へぇー」
ちょっぴり関心して、弁当箱を受け取り開けてみた。
中には――
「――おい。あきらかに、一流のシェフが作ったと思われる、あきらかに初めて作ったとは思えない料理が詰め込まれているのだが……。ありがとう、本当におまえが作ったんだよな?」
「気持ちだけはねっ」
「気持ちだけかよっ!」 (ま、誰が作ろうが 美味しければいいけどな……)
あきらかに一流のシェフが作ったと思われる弁当を食べようとしたそのとき――
「やっぱりダメだァー!」
アリスが、あきらかに一流のシェフが作ったと思われる弁当を、僕の手から奪い取り、ゴミ箱に投げ捨てた。
「なッ、なんてもったいないことを……!」
ゴミ箱を覗き込むと、フタが開いたままの弁当箱が、中身を飛び散らして散乱していた。
「君に……大切なボクの友にあげる《処女弁当》は、やはり手作りがいいと思ってね」
「気持ち悪りぃ言い方すんな! 食べたくなくなるだろ!」
アリスは持ってきたバックから、もう一つの弁当箱を取り出した。
アリスに似合わなカラフルで可愛い弁当箱だった。
それを満面の笑顔で差し出した。
「はい、召し上がれぇ、友。これがボクが作った、正真正銘の処女弁当さ」
恐らく不味いだろう。
さっきの弁当と比べものにならないくらいの 見た目と味の差があるはず。けど、心をこもっているはず。なら、たとえ不味くても食べよう。アニメや漫画の主人公みたいに我慢して食べよう。いちおう大統領の手作り弁当なのだ、不味くても栄誉あるものだろう。
どんなに不味くても絶対に残さず食べると心に誓い、カラフルで可愛い弁当箱を開けた。
「………」
見た感じ、不味くはないだろう。けれど、心はこもっていないはず――絶対に。
開けた中身は、【日の丸弁当】だった。
中にはまるまるご飯がつまっており、真ん中には【赤いキャンディー】が乗っかていた。
しかも棒付で――。
(あ、ありえない……。どんな発想で、こんなバカげた料理を作れるんだ? 天才なのか? アホなのか? 天然なのか? 嫌がらせなのか? 判断が難しい。味はだいたいわかるが、これじゃあ見た目は悪くて不味い料理のほうが、まだ食べる気になるぞ)
何かこう、あまりにもの衝撃で弁当箱をひっくり返そうと思ったが、止めた。
大統領の手作り弁当なのだ、国際問題になってしまう。
隣に座るアリスは瞳を輝かせて僕のことを見つめていた。
きっと、友である僕がいつ食べるのか、どんな感想を言うのか楽しみにしているのだろう。迷惑だ。
できればいますぐコレを床に投げ捨てて、ゴミ箱に入っている、散乱した一流シェフの料理を食べたかった。
こんな、大統領の処女弁当という奇っ怪なモノを食べるくらいなら。
「はあー」
観念し、ご飯部分を少しずつ食べていく――味は普通、そりゃそうだ。
食べる様子を眺めてアリスは瞳をキラキラと輝かせていた。
「どうだい、友? 『適当』に作った処女弁当は」
「お、おまえっ! 一流のシェフが作った弁当には気持ちだけは込めたのに、手作り弁当は『適当』なのかよ!」
「う~ん。気持ちを込めた弁当も作ったのだがね、それを味見させたメイドがね、病院に運ばれてね。だから気持ちを込めないで作ったのだよ。込めたほうがよかったかい?」
「……いいや」
そうか、ある意味こもってたんだな、気遣いが。
「あっ! ボクにもちょっとちょうだい」
アリスは弁当箱の真ん中にあった【棒付きの赤いキャンディー】を手に取りペロペロと舐め始めた。
「おまえが、メインを食べるのかよ!」
「だって、このキャンディーボクは大好きなのだよ」
「知るか、ボケッ! だったら最初から乗っけんな!」
「そうかすまない。じゃあ返す」
申し訳なそうに口に突っ込んでいた 棒付きキャンディーを、弁当箱の真ん中に戻した。
「 舐めてべチョべチョになったキャンディーを戻すなァァァァァァ――ッ! 」
国際問題上等で、ゴミ箱に投げ捨てる。
やったぜ! ガッツポーズを決めた。
「ああ……もったいない」
「おまえのせいだろ!」
こうして、まったく楽しくない不快だけが募る お昼が終了した。
「もう昼いいから、教室に戻ろうぜ、アリス」 (もう食べる気もまったく失せたしな……)
「ああ……ちょっと待て、友。ボクは放課後、新たな部を設立しようと思ってね。それの相談にのってもらいたいのだよ」
「続出の部じゃ ダメなのか?」
やれやれと嘆息し――
「こんな学校に、ボクが求める部があると?」
「いや……ないとは思うが……こんな学校って……? いちおう おまえが選んできた学校だろ?」
「この学校の価値は、キミという『生涯の友』がいるだけ……それ以外なんの価値もないよ」
(は、ハッキリ言うなよ……恥ずかしい……)
「どうしたんだい、友? 顔が赤いぞ? きっとボクのせいだね、やったねっ」
優越感にひたった顔でガッツポーズをした。
「う、うるせェー! 風邪のせいだよ! あの時、おまえがひかせるから、まだ残ってんだよ!」
「そうなのかい? てっきりボクの、ズバズバ言う恥ずかしげもない台詞のせいだと思っていたのだが……残念だ、違っていたか」
まったく残念そうじゃない顔で笑っていやがる。
(こいつ、絶対わかってて言ってるだろ?)
アリスと友の契りを交わしたことを、ほんの少し後悔した。そして、ほんの少し嬉しかった。
「で? 大統領さんは、どんな部活を作りたいんだ?」
「 世界征服部 」
ぶふぅ――と吹き出した。
「 あ、アホかァ……! そんな子供じみた部活作ってどうすんだ? どうせなら、世界を守る戦隊部でも作ったらどうだ!」
嫌みで言ったつもりだが――
「ああ、いいねぇーそれにしよう」
ノリノリで乗ってきた。
「キミが隊長になるならねっ」
「いや……冗談です……」
適当にでも『やる』なんて言ったら、本当にやらされかねん。それだけの権力と財力と行動力を こいつは持っている。
「もう、おまえの戯言につき合うのも疲れた。教室に戻ろうぜ」
屋上を出ようとする僕の腕を、アリスはせがむように両手でつかんだ。
「いいじゃないか、友。どうせキミは絶対に帰宅部だろ? 言わなくても絶対そうだ」
「決めつけるな!」 (……まあ、そうだけど……)
「でもアリス。なんで世界征服部なんだ?」
無邪気な笑顔を輝かせ。
「だって、カッコいいじゃあないかぁ」
ガクっと膝が落ちた。
「ボクは小さいときから、日本のアニメが超好きで、昔やっていた、大統領が世界征服を目論む悪人で、それを主人公が阻止しようとするアニメが大好きだったんだ! そのときからボクは、世界征服部をつくることを心に決めていたんだ!」
「よ、よりにもよって、それかよ……」
興奮してつめ寄ってきた。
「どれくらいアニオタかというと、毎日、日本のアニメを生で見て録画して、気に入ったモノは日本の通販で特典付きのブルーレイやグッズを買っているくらいだ。総額200万はくだらない」
「に、200万『円』!」
「『ドル』」
「ど、ドルゥ!」 (だ、大丈夫か、アメリアは? 大統領が、もの凄いアニオタで……)
ガラにもなく他国の行く末を憂いてしまった。
「アニメか……僕も昔ハマっていたな。いまじゃすっかり冷めて、まったく見なくなったけどな。まあ、テレビ自体もまったく見なくなったけど」
「なぜ冷めたのだ、友は?」
「そうだな……あんなの現実じゃありえねーだろ? そう思ったら急激に冷めてな、それっきりだ。おまえの世界征服とかナントカもアニメの影響だろ? やめとけ、そんなフィクションの世界に生きるのは。仮にも大統領なんだから、この現実世界に目を向けろよ」
「どうやら……ボクは勘違いしていたようだ」
「そうか……わかって……」
「日本人というものは、ほぼ全員アニメが大好きで、部屋に女の子のポスターとか貼りまくっていると思っていたが……友と、その部屋を見るかぎり違うようだ。勘違いしていたよ」
「どんな勘違いだよ! そんな奴、日本でも限られた人口しかいねェーぞ」
「そうなのかい? ボクの部屋には、アニメの美少女ポスターが壁が見えないくらい張ってあるぞ」
「ま、マジかよ……って、なんで美少女なんだよ? 普通、男だろ?」
「ボクは『バイ』だからねっ」
「はぁ?」 (い、いまコイツ、さらりとトンデモナイこと言ったぞ。聞き間違い違いか? 聞き間違いであってくれェー!)
願うが、想いは裏切られる。
「だから、この大統領アリス・ハートは、女性も愛せる《バイ》だ」
バイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイ。
無限に脳内でリピートした。
(だ、大統領が……ば、バイだと? 一体、アメリアはどうなってしまうんだ……?)
またガラになく他国の行く末を憂いてしまった。
意図せずに世界的重用な秘密を知ってしまい、深い溜め息が漏れた。
(知りたくなかったぁ……。バイには偏見はないが、できればこのことは世界のために隠してもらいたい。無理だろうなぁ、こいつの場合。正式な大統領就任式とかの晴れ舞台で、世界生中継で発表しそうだ。せめて、こいつの性格が隠せる性格ならよかったのにな……。まあ、そんなアリス、僕はあまり見たくないが)
何だかんで言って僕はありのままのコイツが好きなのだ。
やっぱりコイツは、僕にとってヒーローなのだ。
だからヒーローには自分らしく生きてほしいと願う。
これ以上バイとかレズとかの話を振られても困るので、ずれた話しを元に戻すことにした。
こいつのずれた性格はもう戻らないだろうから。
「だけど世界征服部っていうのはどうなんだ? 大統領のおまえがそんな変な部活を作れば、世間的にあまりいい印象をもたれないぞ」
「あははっ、たしかにね! 参謀の言う通りだ」
「やめろ、勝手に幹部にするのは! そんなダサい部活に入っていたら、学校中のいい笑い者だ!」
「仕方ない。ナイーブな友はために、世界征服部と堂々と名乗るのはやめておこう。だから『世界制服部』というのはどうだろう、友?」
「ん? 同じじゃねーか?」
「征服ではなく、服の『制服』だよ。表向きは世界中の制服を集め、着るという目的だが……実は裏では、世界制服を企む秘密結社……カッコいいじゃあないかぁ」
秘密基地を作る子供みたいな顔だった。
「……秘密結社って……そもそも何をする部活なんだ?」
「作ってから考える」
ガクっと膝が落ちた。
世界征服を本気で目指すとか言われるより万倍マシだが。
「よしっ! じゃあ放課後、新たな部活を作ろう! このボクが部長兼 総帥で、友が副部長兼 作戦参謀だ!」
意気揚々と名指しで任命されて頭を抱えた。
「もう……勝手にしてくれェ………」
嘆きの声を漏らし、がっくりと肩を落とした。
そんな僕とは対称的にアリスは高笑う。
「あははっ! 特殊な部活作りとは、まるでアニメみたいじゃあないか。現実でこういうことをするのも悪くないっ!」
「悪いよ……」
特に、僕にとっては――。
(はぁー……。どうせこいつに言っても、何一つ聞いちゃくれねーだろうな……。もう諦めるしかないか……。それに、僕はこいつと約束しちまったしな。死ぬまで友でいようって……。なら、最後まで付き合うか……友として……)
諦めにも似た感情を抱きながらも、どこかワクワクした気持ちが心の中にあふれていた。
何か生きてるって感じがした。
「さぁー友よ、教室に戻ろう! つまらない授業をとっとと終わらせて世界制服部を作るぞ!」
「アイアイサー……総帥……」
やる気のない返事と敬礼をして、総帥アリスの後をついて教室へと戻る
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