第19話 ロッカー戦争
放課後。
授業が終わり、僕たちは職員室に行き、世界制服部などという ふざけた部の設立に成功する。
通常の手段では絶対にできない部活だが、大統領の権力によって容易にそれを可能にした。
内容は――
アリス『世界制服部を作る!』
燐子先生『は、はい! わかりました、大統領』
こんな感じ。実にシンプル。
世の中権力だなーっと、しみじみ思わせるでき事であった。
アリスは校舎の地図をながめ、一番日当たりがよさそうな場所を指差した。
「それでは、部室はここがいいかな」
「あ、あのぅ、大統領……い、いえ、アリスさん……。そこは、他の部活が使ってまして……」
遠慮がちに先生が言うと、アリスは――
「そうか……わかった。いつ頃使わせてもらえるのだ?」
決定事項のように言い放った。
「は、はい、いますぐそこで部活ができるよう、そこの部室の人たちに、他の場所に移ってもらえるよう言ってきますね!」
「うむっ」
(うむっ。じゃねェーよ、バカヤロー! 完全に脅しだよ!)
急いで先生は部室の人たちを説得しに行こうとしたが、アリスが呼び止める。
「いや、やはり悪い気がする。先生にそんなことさせるのは……」
両手を合わせて涙目で懇願する。
「いえ、いいんです、大統領ぉ! わたしがしたいんです、お願いします、させてくださいぃ……!」
そこまでするか? いや、するか。大統領だもんな。給料半分とかにされたら嫌だもんな。好きなゲームとか買えなくなっちゃうもんな。
「……わかった。そこまで言うのなら」
(おまえが言わせたんだろ! つーか、わざわざ先生を呼び止めたのは、謝る姿を見たかったからじゃねーだろうな?)
「ひでぇ……」
思わず口からこぼれてしまった。
こういう奴がいるから、世界は平和にならないんだという一幕であった。
こうしてアリスと僕は、日当たりの一番いい部室をゲットした。
ポケモンでいう、マスターボール並みのチートでだが。
――そして20分ほどで、アリスが選んだ部室は、いままでどこかの部が使っていたとは分からないほど綺麗さっぱりになっていた。
部室にあるのは、机数個と、その数と同じだけの椅子だけであった。
おそらく、ここを使っていた者たちは、いままで生きてきた中で一番真面目に掃除したに違いない。
両手を合わせて『すまん』と、名もしれない部員たちに、友の非礼を詫びた。
アリスは部室の中央で満足そうに微笑んだ。
「まあまあかな……」
(殴りてェー)
「では、制服についてはメイドのメグミに頼んで、明日までに世界中から色々と集めさせよう」
「ん? 制服? 何に使うんだ」
瞳をキラキラと輝かせまくり――
「コスプレ。ボクの趣味」
「お、オタクが……」
「そうだな……今日の部活動はまず、部員探しだな」
「別にいいだろう。誰も入れなくても?」
誰も入らねェーし。
「おや? まさか、嫉妬かい? ボクを独占できない」
ニヤニヤとした顔をビンタしたい。
「いんや、まったく。こんなアホな部活に巻き込まれるのは、僕だけでいいと思ってな」
「では、探しに行こう! ボクたちの仲間を!」
「話しを聞けっ! 誰かを巻き込むな!」
「そうだな……まずは『自殺』しそうな人間から勧誘するかな」
「な、なんでだよ! なんで自殺しそうな人間なんだよ?」
意味がわからず声をあげると、感慨深そうに僕を見た。
「ボクたちは自殺繋がりで知り合った。自殺しようとする人間は、大抵 心が優しいと相場がきまっている。僕たちのようにね。そういう人間を積極的に引き入れていきたい」
「おまえの自殺騒動は自作自演だろ! それと、おまえが優しい人間だとはこれぽっちも思えん!」
「さあー友! 屋上に行こうか! 自殺志願者は屋上が好きなはずだからねっ」
「勝手にきめんなっ!」
「好きだろ?」
じっと見つめられて目をそらす。
「……ああ」 (……悪いかよ……)
「ボクもだ。さあ行こう!」
アリスに引っ張られ、屋上で自殺志願者、もとい部員を探すことになった。
屋上に着くと、そこには誰もいなかった。
また変な噂が流れているらしい。
『屋上は大統領の私有地で、入ったら爆撃される』とかなんとか――ありえるか? ありえるな。
僕たちは屋上で、自殺志願者がくるのを待つことにした。
あの噂を知ったうえでここにくるのなら、相当 自殺志願者の素質があるだろう。
アリスは屋上にあった『ボロボロの掃除用ロッカー』に近付いていく。大きさは人一人が入れるくらい十分にあった。
「うむっ。隠れて観察するには、もってこいの場所だな」
「たしかにな。おまえがここにいたら、みんな逃げちまうしな。俺とおまえどっちが入る?」
「え? 一緒にだが?」
「断るゥ!」
「いいじゃないか、友ぉ。男女で狭い密室の空間に隠れてエッチな展開になる……アニメじゃ定番中の定番だしぃ……」
上目遣いでアリスは頬を赤らめた。
「よけい却下するっ! まったくこれだからア二オタは……! アニメの出来事を、この現実世界に持ち込むな!」
「いいじゃないかぁ、友人同士なんだしさ。まさか友は、この狭いロッカーに2人で入っても、ボクに対して『エッチ』な気分になったりはしないだろ? ん?」
「えっ! あ、あたりまえだろ……ば、バカが……」
あからさまに動揺して怪しい。
「じゃあ、いいじゃないか。断るからまさか友が……ふふふっ。ボクをそういう目で見ているんじゃないかと思って……うふふっ。ちょっと興奮しちゃったじゃあないか……むふふふふふっ」
うっとりした表情で身をくねらせている。
(ぐぅっ…… ハメられている……)
それはわかっていても――
「わかったよ! 入ればいいんだろ、入ればァ!」
入らないわけにはいかなかった。
こいつに弱みを握られるわけにはいかない。
「強引だなぁー友はぁ」
嬉しそうにするアリスとは正反対に、僕はがっくりと意気消沈していた。
「いいからぁ、はやく入ってくれぇ……」 (はやく、この悪夢を終わらせたいぃ……)
嫌々、本当に嫌々、アリスと共に壊れたロッカーの中に入った。
入った瞬間アリスは、体を密着させてモゾモゾと動いた。
「なかなか狭いなぁ……。これじゃ友に、あらぬ妄想をさせてしまうんじゃないかと心配になるぞ……むふふふふふっ」
妖しく笑うアリスの吐息が首筋にあたりゾクッとした。
「し、しねェーからァ! と、とにかくいいから、この穴から自殺しそうな奴でも探してろォ!」
ボロボロのロッカーの、穴が開いている部分を指差した。
「見つからず、ずっとこのままでもいいけどね♡」
「僕は死んでも嫌だ!」
むにゅうぅっ!
(ムッ、胸がァ!)
ふくよかな胸が胸板に押し付けられ、全身が熱くほたっていく。
高揚した雰囲気でアリスは赤い唇を開く。
「どうだい、友ぉ? せっかくこんなところで、こんな機会めったにないんだぁ……何か遊んでみないかい?」
「ど、どんな遊びだよ……?」
動揺して声が震えてしまう。
わずか数センチ目の前にアリスの顔がある――その事実に緊張して息が止まりそうになる。
「大人の遊びだよぉ。友となら相性は良いはずだよぉ……」
さらに『むにゅうぅぅっ』 と密着させた。
(こ、こいつゥ、絶対にわざとやってるだろ?)
以前、猫のきぐるみの頭の部分をカブったアリスに胸を押し付けられたことがあるが、それとはまた別の感覚である。
目の前にいるのは、世界ベスト10に入る美少女の顔なのだ。そんな規格外を前にして緊張しないわけがない。
ドクンドクンと、心臓が高鳴っていく。
それが胸を通してアリスに伝わっていると思うと気が気ではなかった。
アリスは可愛らしく美人だが、バイだ。
そんな彼女は、僕のことをどう思っているのだろう?
ただの友達? それとも――わからない。
緊迫した状況でアリスは胸だけじゃなく、ふとももまで押しつけてきた。
「ぐぅっ」 (ヤバい! ヤバい! ヤバい!)
理性がブッ壊れそうになる。
アリスの顔をまともに見れない。
「はあ、はあ、はあ……」
こんな状況でアリスは息を切らせ始めた。
熱くほたった吐息が、顔にしっとりとかかる。
「ううぅっ……」 (な、なんだ? この気持ち悪いのに、気持ちいい感覚は……? この甘ったるい匂いのせいか?)
ボーっとして思考能力が奪われていく。
それは、この異様な状況のせいなのか、それとも――
アリスは赤い唇をぺろりと舐める。
「友よぉ……何か変な気分にならないかい? 友と……一線を越えてしまうような……」
「な、ならねェーよ! なるわけねェーだろ、こんな状況で!」 (ならねぇ! ならねぇ! ならねえ! ならねぇ! ならねぇ!)
目をつぶり呪文のように念じ続けた。
そしてアリスのプルプルした可愛い唇が、僕のカサカサになった唇に近づいてくる。
(もう理いィ!)
我慢の限界になり、ロッカーから飛び出ようとしたが――
「――ッ!」
開かない。
ガチャガチャと どんなに力をいれてもビクともしない。
「むふふっ。見た目どうり、本当に壊れていたようだね」
閉じ込められている状況なのに、アリスは楽し気に微笑んでいた。
「密室で、男女ふたりっきりで 閉じ込められる状況……これもまたアニメの王道だね。せっかくだし、この状況を楽しもうよ……友ぉ」
熱にうなされているアリスの雰囲気に戦慄した。
(い、嫌だァ! こんな状況、一分一秒でも耐えられるかァ!)
ロッカーを開けようと、さらに力を込めるが ガチャガチャと空しく音がするだけで一向に開かれる気配はない。
「コラっ、暴れるな、友! ボクは初めてなんだぞ、もっと優しくしないとダメだろ……」
「うるせェーバカ! こんなとこいますぐ出たいんだよォ!」
「早漏だね、友は……」
「下ネタいうな!」
ロッカーの中で ギャアギャアと騒いでいると、ロッカーの扉がひとりでに開き、暗闇に一筋の光が差した。
扉を開けた人物は、ちんまりした可愛い女の子だった。
上履きの色から一年生だろう。
不思議そうに彼女は首をかしげた。
「あ、あの……ロッカーの中で何をしているんですか?」
「ロッカープレイ」
大統領を殴った
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