第15話 ビッグインパクト


 2日間 病院に留まり、風邪を完治させた。

 そしていつもどおり――いや、前とは違う気持ちでの 学校生活が始まった。


 あんなにどうでもよかった学校が、少しだけ行くのが楽しみになっていた。


(まあ、学校もアリかな……そう思えるようになったのも、あの猫のおかげかな)


 猫に微妙に感謝しながら、教室に入り、窓際の一番後ろの席に座り、いつもどうりの授業を受ける。


(僕は……本当に変わったのだろうか?)


 いつもどうりすぎて、自分が変わった実感があまりない。

 自分自身では絶対変わったと思うのだが、その差異がよくわからない。


 授業が退屈になり、窓の外の青い空を見上げた。

 やっぱり、変わってないんじゃないか?と不安になるが、その心を、光輝く空が打ち消してくれた。


 そういえばルカは風邪をひいて、昨日から学校を休んでいるらしい。

 恐らく、僕が移したのだろう。

 あいつ、僕の食べかけのフルーツを病室でバカスカ食っていたしな。


 ガヤガヤと休み時間の教室が、普段よりずっと騒がしい。

 机に座り聞き耳を立てる。


『今日、ものすごい転校生が、うちのクラスに来るらしいぜ?』

『ホント? じゃあ、あの噂の……』

『なんて呼べばいいのかな? 様つけたほうがいいかな? 様?』

『バカっ。こういうのは普通にしないと嫌がられるのよ』

『そうだよなぁー。ぼく、緊張してきたぁ……』


(たしかルカの家で聞いた、うちの高校に 『総理大臣の孫』が転校してくるって噂か? それが 今日くるのか? ま、どっちでもいいか。あの猫に比べれば 、総理大臣の孫なんて僕にとって、どうってことない存在だ)


 いまの僕は、総理大臣の孫くらいのインパクトでは驚きもしない。

 こっちはもっとインパクトのある奴に出会ったのだから。


 僕に生きる価値をあたえてくれた、猫に――。

 死の運命さえ優雅に足でドロぶっかける、猫に――。

 僕は出会ったのだから。


 あいつに比べれば、総理大臣の孫だろうが、たとえ総理大臣 本人が転校してきても、僕は驚かない自信がある。


 あの猫と比べれば、この世のすべての人間がありふれた存在だ。それぐらいあいつの存在は僕にとって大きかった。


 目をつぶり、猫の思い出に浸っていると、教室のドアが開き、このクラスの担任 近藤 燐子先生が入ってきた。


 彼女は『金八先生』に憧れて先生になったという、ちょっと痛い人である。


 教壇に立ち燐子先生は言った。


「みなさーん、今日はものすごい転校生が、このクラスに転入することになりましたー。いきなりですので、決しておおげさに驚いたり騒がないでくださいねー」


 みんなはうなづき了承した。


(驚くわけがない……どんな奴でも……)


 余裕と思っていると、教室のドアから転校生が入ってきた。


「――ッ!」


 見た瞬間、とてつもなく驚いた。

 驚かないと自信を持っていたのに、死ぬほど驚いた。


 長い金髪に、美しい美貌。

 その者のことを、よく知っている。


 ハレンチで、ずうずうしくて、傲慢で、嘘つきの——


「 猫おおおおおおおおおおおおおおォォォォォォォッ! 」


 大声を上げて立ちつくす僕に、クラス中の視線が集まった。


 普段の僕ならここで自重して座るところだが、今の僕には周りのことなどどうでもよかった。

 いま僕の頭の中にあるのは、目の前にいるアイツ ただ1人だけだった。


 全身を震わせて指を差した。


「ななな、なんで……おおお、お前がここにいる……【猫】?」


 美しい美貌をキラキラと輝かせた。


「ハロー友。ふふふっ」

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