第13話 新たな友人


「よう、あんた……自殺するつもりかい?」


 屋上の端に立つその者に声をかけた。


 体はフラフラだが、ロレツは回っている。これからする行為に支障はなさそうだ。


 背を向けながらその者は、チラリとこちらを見る。

 顔はフードで見ることはできなかったのは残念だったが。


(表情から読み取れる情報はなし。態度、喋り方、思想、信念、こだわり、反応、それらの情報を元に、どんな手を使っても、心も体も救ってやるぜ!)


 決意をあらたに一歩、自殺志願者に近付くと――


「誰だい……君は? なんでこんな所にいるんだい? ここは立ち入り禁止だよ」


 陰気な声でボソボソと喋りかけてきた。

 声からは男か女かは判別できない。


「それはお互い様だろ?」


「……だね。じゃあ、何しにきたの?」


 僕を見ずに背中を向けたままの その者に、真顔で告げる。


「死ににきたんだ……」


「はぁ? ふざけてるの」


「じゃあ、恥ずかしいけど言ってやるよ……」


 息をすぅーと吸い、想いを爆ぜる。


「 僕は、ヒーローになりにきたんだッ! おまえを救ってなッ! 」


 僕の言葉を聞いて、屋上の端に立つ その者はあきれた様子で口を開く。


「……その答えの方が、ずっとふざけているよ」


「だな。僕もそう思う」


 ガラにもなくニヒルに言った。

 ホント、今日の僕は誰だよって感じである。


「何、カッコつけてるの? ヒーロー気取り? ボクは自殺なんてしないよ。ここでこの綺麗な夕日を見てるだけ。よかったね……いや、悪かったね。キミをヒーローにさせてあげられなくってさ」


「じゃあ、いますぐ自殺しろよ。それを救って、僕はヒーローになるからさ」


「バカ?」


「ああ、バカさっ! 大バカ野郎だよ、僕はっ! おまえ以上にな! だからおまえを死なせねェ! 死なせたら、その時は一緒に死んでやるよ!」


「……イカれてる。ボクに近づかないでよね。近づいたら本当に死ぬからね」


 その言葉を無視してゆっくりと近づいていく。


「なんだ、やっぱり死ぬ気だったんじゃねーか。僕を救ってくれたヒーローの言ったとおりじゃねーか」 (ここまで当てるなんてな……。本当にあの猫はスーパーヒーローかもな)


 近づく僕の姿に、その者はうろたえた。


「近づくな! ボクは決めているんだ。今日ここで、この綺麗な夕日の中で死ぬって……!」


 屋上の端から、目の前にある夕日を見つめて語る。


「綺麗だろ、この夕日? 最高だろ? こんな場所で最後を迎えられればさぁ」


「……気持ちはわかる……」


「だったら、そこでおとなしく見ていてよ。ボクがこの世界から消えるところをさ。どうせ君なんかに、ボクを救うコトなんてできないんだから」


 歩みを止めてその者につげる。


「かもな。昔の……いや、昨日までの僕じゃあ、たぶん無理だったろうな……くくくっ。でも、いまの僕なら救えると思うんだよなぁー……くくくっ」


 こんな時なのに、自然と笑みがこぼれてしまった。


(あの猫に会ったおかげで、僕は変われた。だったら僕も変えてみせる……! この自殺志願者を、あいつのように……!)


「なに笑ってるの? 気持ち悪い……」


「ヒーローは おせっかいで気持ち悪いって相場が決まってんだよ」


「……戯言は十分。ボクは死ぬよ……」


 屋上の先端から身を乗り出そうとした。


「待てよっ! 死ぬなんていつでもできるだろ? そのまえに聞かせろよ、死ぬ理由をさ。せっかく僕がここまできたんだぜ。誠意を見せろよ、誠意をさ」


「勝手だね」


「おまえこそ勝手に死ぬなよっ! 死ぬならせめて僕の許可を取ってからにしろよ!」 (まったく、言ってることがメチャクチャすぎる。いくら熱でうなされているからって、以前の僕ならこんなこと言わなかったはず。まったく……あの猫のせいで……)


 変わるきっかけをくれた猫に感謝した。

 背中を向けたままボソボソと喋りだす。


「………いいよ、わかった……教えてあげる。君が納得する理由を……。君がボクに自殺する許可をくれる理由を、教えてあげる………ボクは『病気』なんだ」


「……どんな?」


「心臓収縮病……」


「!!!」


 それを聞いた瞬間、全身に電撃が落ちたような衝撃が走り抜ける。


「知ってるかい? この病気は、いつ死んでもおかしくない病気なんだ。こうして話している間にもポックリとね」


「ああ……よく知ってる。『僕もそうだ』」


「はあ? 何それ? 共感させて、自殺を止めようという策略かい?」


「いや……マジだ。僕もかなり驚いてる。だが、まあ、マジだ……嘘じゃない」


 この時の僕は自分でも驚くくらい真剣な顔をしていたと思う。

 ビデオなんかで撮ったのを後で見たら吹き出すくらいに。


「たとえ……それが本当だとしても……ボクは飛ぶよ、この夕焼け空に……。だって、この世界は生きいてても辛いだけだから、生きていても何もないから、仕方ないじゃないか。君ならわかってくれるだろ? 同じ病気ならこの気持ち……」


「……自殺したら、地獄に落ちるっていうぜ?」


「それって、何かの宗教の話しでしょ? ボクは無神論者なんでね。それに、こっちもあっちも対して変わらないんじゃないかな?」


「ああ……かもな。こっちも地獄だ。僕にもわかる……。僕も昨日、自殺したから」


「はぁ? 何それ? それって矛盾してない? 自殺した人間が偉そうにボクを救おうというのかい?」


「矛盾してないさ。自殺志願者だったからこそ、僕はおまえを救いたいんだ。僕を救ってくれたヒーローにみたいにな。僕はおまえの心も体も救って、あいつみたいなヒーローになってみせる!」


「………」


 顔は見えないが、こんなバカげた話しを真剣に聞いてくれてるように感じた。


「自殺志願者から……ヒーローにか……。よくそんな恥ずかしいことを ペラペラと言えるね?」


「今、そんなことを恥ずかしがってる方が恥ずかしいだろ?」


「……かもね。じゃあさようなら、見習いヒーローくん。残念だけどボクは君のことをヒーローにしてあげられないよ。君のことは嫌いじゃないし、好きなほうだよ。でも、やっぱり辛いんだ……。たとえ君が乗り越えられたものだとしても、ボクには無理なんだ、乗り越えられないんだ。わかってくれとは言わないよ。見ていて傍観していてくれ」


「断る」


「無理しなくていいよ。君は、ボクが死ぬことに何の罪悪感をもつ必要なんてない。ボクは欠陥品なんだ。欠陥品はこの世界に存在しちゃいけないんだ。ボクはボクという欠陥品を自らで処分するだけなんだ。当然であたりまえのボクの権利だよ。欠陥品でもボクの命なんだから……」


「前の僕も、そう思っていたよ……」


「……なら……」


「でも、今は違う! もう、おまえだけのモノじゃない! 僕のモノでもある!」


「はぁ?」


 間の抜けたな声をあげたその者に、心にある想いを伝える。


「もう関わっちまったんだ、ここまで深くねっとりとな。あんたが死ねば、僕は一生自分を許せないだろう。きっと、死ぬまでずっとあんたを救えなかったことを 悔やんで生きていかなくちゃならなくなる。それでもい?」


 まるで脅しである。

 けど、わかっていてあえて言った。

 どんな手を使っても、この者を救いたいから。


「……よくはないけど……君の言うそれは身勝手だよ、自己中心的だよ。君にそんなことを言う権利はないはずだよ」


「あるさ。僕はおまえと友達になりたい。それじゃあダメか?」


「ダメだよ。ボクはもうすぐ死ぬ。そんなボクに友達なんて必要ない」


「あるさ! 僕たちは同じ病気で、同じ苦しみを、同じ運命を背負っている。だったら、いい友達になれるはずだろ? 違うか?」


「………」


 背中を向けたまま答えてはくれなかった。けど、心には受け止めてくれている――そう信じて、ありのままの想いを伝える。


「友達にまず必要なのは、わかり合うことだ。そしてさらに関係を深めるには、自分の最大の悩みを告白することだ。それはもう、僕たちにはできているじゃないか。こんなに最高の友達になれる要素どこにある?」


「……必死だね。意味不明なこと言って」


「逃げるなよッ!」


「はぁ? に、逃げる……? ボクがかい……? それは、この世界からかい……それとも……」


「全部だよ! 僕からも、世界からも、おまえの自身の心からもだよ! お前だって本当は、生きたいって思っているんだろう! 自分と同じような人間が側にいてくれたらよかったって思っているんだろう! そうしたらこの世界は、自分の中の世界は、少しはマシになるじゃないかって思っているんだろう! 違うか?」


「そ、それは……ただの欠陥品同士の傷の舐め合いだよ……」


「ああ……舐め合おうぜ。隅から隅まで舐めあおうぜ……きっと癒される。人は一人で悩みを抱えるより、二人で抱えたほうが楽になるって言うぜ。同じ痛みを持つ同士なら支え合える」


「気持ち悪いよ……馴れ馴れしい……。でも……わかる気がする。でも……生きていてなんの意味があるだい? すぐに死んじゃうこんな命に?」


「死ぬ時にわかるさ」


「……じゃあ、いま死ねばわかるの?」


「わかるわけねェーだろ、ボケッ! それは、いま死のうとしているおまえが一番わかっているはずだ! いま死んでも何もわからない。生きてきた意味もわからず、ただ死ぬだけだ。この世界に生きてきた意味がわかるのは、最後まで精一杯生きてきた者だけなんだ!」


「………この世界から逃げた者には、わからないか……。そうかもね……そうかもしれない……けど……」


 何かに迷いその者は、自殺する動きを完全に制止させた。

 ゆっくりと近づき、手を差し出した。

 あの猫が、僕にしてくれたように――。


「その、生きてきた意味を、僕と一緒に最高にしないか? 生まれきてよかった、生きてきてよかった。たとえ病気でわずかな命でも、この世界に存在してよかった……そう死ぬ時に思えるように、僕と一緒に生きてみないか? 僕と一緒に来い! 僕の手をつかめ! 僕と友達になれ! なって一緒に生きて死ねば、最後に、こんな友達を持てたまま死ねてよかった……そう思えるようにしてやる! 逆におまえも僕に与えてくれ。僕がおまえのような友達を持てたまま死ねてよかった……そう思える最後を……」


 胸にあるすべての想いを伝えたきった。

 きっとこんなコト一生に一度しか言えないだろうな。ま、あんま長くないけど。


 差し出した僕の手に、その者は手を伸ばすが、スルーして僕に抱きついた。


「――!」


 やわらかく、この者は女だろうという事がわかった。


「わかった、いいよ……。君はボクのヒーローになってくれ。ボクの、友達になってくれ……死ぬまで一生……」


「ああ……断る理由はないな。僕は『真帆世 海斗』。一緒に一生、生きて死のう」


「ああ……一緒に一生、生きて死のう。ボクの名前は……【猫】ニャ」


「はァ?」


 耳を疑う言葉に唖然とした。


 その時、突風が吹き、その者の深く被ったフードが外れ、中から美しい金髪が宙を舞った。 

 黄金に輝く髪は美しく、この綺麗な夕日に恐ろしくマッチしていた。


 全身をガタガタと震わせ、抱きつくその者の耳元で問う。


「お、おまえ……ま、まさか……まさかなのか……?」


 抱きついたまま金髪の女は ニヤリと笑い。


「そうニャ♪」


 ブッチンッ!


「テェンメェェェ――――――ッ! このクソ猫アマァァァ―――――――ッ! 全部ッ、おまえの自作自演かよォォォ――――――――ッ!」


「にゃふふっ。ご主人様ったら、ヒントだらけだったのに まったく気づかなかったのかニャ? にゃふふっ」


 いたずらっぽく美しい顔で笑っていやがる。


(さ、最低だ……。最低のクソ猫アマァだ……。僕の想いを、踏みにじりやがってェ……)


 抱きつく猫を無理やり離そうとしたが、抱きつく力を強めて、大きな胸をむにゅっと当ててくる。

 いやおうなしにも赤面する。


「て、てめェ……。じゃあ、予知能力っていうのは?」


「嘘ニャ♪」


 悪びれる事もなくしれっと告げられ、血管がブチ切れそうになった。


「それにしても…………ぷっ、ニャははははははははははははははははっ! 」


 美しい笑い声が、綺麗な夕日に木霊した。

 僕から離れて口調を変えて喋りだす。


「一緒に一生、生きて死のうか……ふふふっ。いいヒーローっぷりじゃあないか、友」


 殺意の眼光で猫を貫く。


「て、テメェ……このクソ猫アマァ……ブっコロす……」


 それをかわすようにくるりと回り、不敵に笑う。


「ふふふっ。せっかくボクを救ったのに、またコロすのかい?」


「ああ、ブっコロすねっ!」


 熱でフラフラ状態のまま、目の前にいる金髪の少女をにらみ続けた。

 怒りと熱で視界がグラングランと揺れて気持ち悪い。

 猫は片手を大きな胸に当てて にっこりと笑う。


「友よ、あらためて自己紹介をしよう。ボクは『アリス・ハート』。よろしくね、友」


 パチリとウインクしてアリスと名乗る少女は優雅に微笑んだ。

 茫然としたまま立ちつくす。


(い、いままでのことが、全部自作自演かよぉ……。なんていうもの凄いドッキリだよ。これでカメラが出てきたら、本気でここから飛び降りたくなるぜェ……)


 凍りついたままの僕の頬を、アリスの名乗る少女が温かい指で撫でる。


「可愛いね……キミのその顔……」


 舐めまわすような指と、薄ら笑いを見て、僕の凍りついた体が一瞬にして溶け、マグマのごとく怒りが湧いた。


「テンメェェェ――――――ッ、ふざけんなッ! せっかく僕はおまえを信じて、ここまで救おうとして来たのにィ、全部 自作自演の嘘かよォ!」


「いや、『病気』は本当だよ」


「へっ?」


 真顔で言われて全身が凍り付いた。

 いまの僕はほうけていて、どこまでもマヌケ顔をしているだろう。

 そんな僕を見つめてアリスは不敵に笑う。


「………ふっ。冗談さ」


「こ、この……クソ猫アマァ……」


「だが、これで君は自分自身を救えたろ?  誰かを救うということは、自分を救うことにも繋がるからね」


「全然救えてねェーし! また死にたくなってきたぜ……」


 苦悩に満ちた表情で、頭をぐったりと押さえた。


「じゃあ、いますぐ死ねばいい。そんな気があるのならね、ふふふっ」


「くそっ! もうまったくねェーよォ、クソッたれ!」


 アリスの言うとおりだ。

 こいつを救おうとしたことは死ぬほど後悔しているが、死ぬ気はまったく失せていたのだ。


 死の病気の恐怖から解放されて、僕は自殺志願者ではなくなってしまったのだ。

 もし、これを計算づくでやっていたとしたら、こいつは凄い奴だ。


「どうだい友? いまの気分は?」


「最悪だぁ……。おまえへの怒りと熱でフラフラして気持ち悪いぃ……。だが……言いたくないが……心は晴れ晴れしている。もちろん、おまえへの怒りのほうが上だがな……」


「ふふふっ、そうかい。それはなによりだ」


 無邪気な笑顔がまぶしい。


「おまえは敵で悪人だ! 友なんかじゃねェーよ!」


 ヒーローには悪役が必須だが、こいつはそれを超えている。僕の心を弄びやがって。


「それはダメだな。キミはボクと契約している。死ぬまで友でいるとね。このレコーダで録った、キミのさっきの台詞を再生しようか?」


「やめろォォ―――――ッ! あんなこっ恥ずかしい台詞、聞きたくなァい!」


 耳を押さえてうずくまる。


(悪魔か、こいつ? 録音なんかしやがってェ……)


「ふふふっ。ボクにとってはあの『言葉』は、死ぬまで一生 心に残る『大切な言葉』になったのだがね」


 悶える僕を見降ろしてアリスは優雅に微笑んでいる。

 その笑顔は、後ろの絶景の夕日より遥かに美しかった。


「う、嘘つけ! それより猫……いやアリスか。おまえ、僕が病気だと初めから知っていたな? それを知っていて、あのとき僕を助けたんだろ?」


「ピンポーン、その通り。ボクの友人との会話でね、君の話題が出たとき、君の病気のヒントがあったのさ。まあ、その友人も君の病気については何も知らなかったようだがね。それでボクはキミに興味を持ち、尾行して 後をつけ、君が自殺したところを救ったってわけさ」


「そうか……で、誰なんだよ? そのヒントをくれたヤツって? 僕は友達少ないぞ」


「ボクもだ。だが安心したまえ。いまはボクという『最高の友』がいる」


「詐欺師め! 友情契約も無効だ! 全部ウソっぱちだったんだからなァ!」


「じゃあボクは、無効にすることを無効にするよ……ふふふっ」


 可愛く舌をぺろっと出した。


「ぐっ……!」 ( なんてわがままなんだ……さすが猫)


 僕の目の前に、手を差し出してきた。


「さあ行こう、友」


「?……どこにだよ?」


 不貞腐れる僕に、アリスはパチっとウインクした。


「病院だよ。風邪をひいているのだろう? 送らせてくれ。こんな有意義な『茶番』に付き合ってくれたお礼だよ」


「自分でやっておいていうなっ!」


「さあ」


 アリスは手をさらに前に出した。

 そっぽを向き――


「いらねーよ、おまえの同情なんて……。自分で……ううっ……」


 視界が激しく揺れて体がグラついた。

 すべてが終わって気が抜けたせいか、いままで『自殺志願者を救う』その一心で耐えてきた僕の体も、熱で一気にいうことがきかなくなってしまった。

 倒れそうなった僕の体をアリスが支える。


「同情じゃないよ、友情だよ。さあ、向かうための足は呼んである。そろそろ来る頃だ、それに乗っていこう」


 アリスは肩を貸したまま 屋上の先端に向かっていく。


「お、おまえ……まさか、また自殺する気か? 今度は僕を道連れに……!」


「ふふふっ、それは良い考えだね。でも、キミは言ったろ? 一緒に一生、生きて死のうと……。その言葉にボクは従うよ。ボクは最後まで生きて死ぬ……キミと一緒にねっ」


超至近距離でウインクされ、ドキリとして目をそらす。


「じゃ、じゃあ……何のために行くんだよ?」


 人差し指を夕日に向けた。


「ほら、見たまえ。迎えが来たよ」


「あ、アレは!」


 夕日と重なるように、『ヘリ』が轟音を立ててこちらに近づいてくる。


 一瞬、夢かと思う光景に、目をパチクリとさせたが、どうやら夢ではないようだ。

 気持ち悪くて吐きそうな胃が証拠である。


 ヘリが、この廃ビルの屋上の端に対空状態でつけると、アリスは僕に肩を貸したまま乗りこもうとした。


「あ、アリス……! いや、猫! おまえは一体、何者なんだ?」


 僕からの問いかけに、光輝く笑顔で答える。


「キミの友達だよ。死ぬまでねっ」


 その笑顔を最後に、僕は意識を手放した。

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