第6話 ラストフレンド

「そういえば あんた知ってる?」


「知らん」


「そっか……あんたバカだもんねっ」


「内容を話せよ。それで分かったらエスパーだよ」


「テレビ見てる。いま話題のニュース知ってるでしょ?」


「知らん。僕はテレビはあまり見ない」


 僕は中学の頃、深夜アニメにハマっていたが、いつからかほとんど見なくなっていた。そのきっかけはなんだっただろう? いま思い返してみるとアニメに対して、『こんなこと現実にはありえねぇーだろ?』そう思った時からだ。それを境に急激に見る気が失せ、他のテレビ番組も見なくなっていった。ようは大人になったということだ、たぶん。


「知りたい?」


 ルカは人差し指を唇にあてて 焦らしてきた。


「聞いてほしかったら言えよ」


「あんた放置プレイ好きでしょ?」


「おまえのオヤジと一緒にするなよ!」


「あたしのオヤジは放置プレイより、鞭で叩かれるほうが大好きだよ」


「知るか! 僕は放置プレイも、鞭で叩かれるのも大嫌いだァ!」


「やばっ! あんた、オヤジと同じこと言ってるよ、やばっ!」


 おバカなやりとりを見かねてかルンちゃんが、僕の服の袖を引っ張った。


「お兄ちゃん。実はね、今度お兄ちゃんたちの高校に、『総理大臣の孫』が転校してくるらしいよ」


「へぇー。あの超有名人が……なんでまた?」


 興味はないがいちおう聞き返した。


「さあ……それはよくわからないけど……なんでだろう?」


 ルンちゃんは腕を組み、可愛く首をかしげた。本当にバカな姉とは大違いである。

 そんなバカな姉に聞く。


「おい、バカ。じゃなくてルカ。おまえのおばさんのコネで何か情報は入ってこないのか?」


「残念だけどカイト、じゃなくてM。ママのコネでも この情報は入ってこないわね」


 コネというのは、こいつの母親であるシオンさんは、アメリアの大統領と親戚で、政治関係の仕事をしているのだ。だからその手のニュースについてはかなり詳しい。


(そういえば……アメリアの大統領は『世襲制』だったな……)


 テレビを見ないが噂は聞く。


 1年ほど前、大統領が急死し、今はその子供が大統領の職についているとか。だが成人になるまで、大統領の弟が政治をやることになっていて、その本人はいまアメリアで学生をやってるとかなんとか。


(僕にとって……本当にどうでもいい話しだな……)


 もし、総理大臣の孫が転校してきたら、アメリアの大統領の親戚のルカとどういう会話をするのか興味はあるが、僕はもうすぐ死ぬので それを見ることはないだろう。

 だが、血の繋がりで親の職を子供に譲るというのは個人的にどうかと思う。


『世の中は、金とコネだ』


 それくらい僕にでもわかる。

 特にコネは、時には金以上の真価を発揮することもある。

 たとえば、どんなに金をつまれても拒む者でも、コネであっさり協力してくれたり。

 コネで、どんなに金をつまれても買えない物でも買えたりする。


 特に、世襲である大統領の職は親のコネでしかなれない。だがそれを、僕は羨ましいとは思えない。


 親のコネで職を受け継ぐことは、むしろ可哀そうに思える。

 端から見れば羨ましいのかもしれないが、本人たちにしたらどうなのだろうか?


 親の職につくことを期待され、それをさらに越えてほしいと願われる。ある意味まったく恵まれていない。生まれる前から人生が決められているのだ。僕には自由のないカゴの鳥にしか思えない。もちろん親と同じ職に着けることを喜ぶ者も多いだろうけど、僕はゴメンである。


(かわいそうか……。それは、僕が言える立場じゃないな……)


 僕は【死】という運命のカゴに囚われている。同情されても同情できる立場じゃない。もちろん、同情されるなんてまっぴらごめんだが。


 もし誰かに同情や憐れみの眼を向けられたりしたら、その夜は胸クソ悪くて眠れないだろう。


【死の運命】を、寿命でしかわからない者に、わかった気になってほしくない。


     ◆


 ――幸田姉妹とカードゲームを始めてから1時間が経過した。


 ルカは意気揚々と立ち上がり、拳を振り上げる。


「さぁー今日はママたちが帰ってこのないから、3人で朝までカードゲームをやるわよー!」


 そんなにルカに水を差す言葉をかける。


「いや、すまん。あしたは大事な用があるんだ、勘弁してくれ」


「えェ――! やだよぉーお兄ちゃん! ルン、お兄ちゃんと朝までしたいよぉー」


 可愛くゴネる妹を、姉のルカがいさめる。


「まあ、仕方ないじゃん。MにはMの事情があるのよ、勘弁してあげなさいって」


「おまえ、どれだけ僕をMにしたいんだ?」


「にひひっ。あたしはしつこくてねちっこいわよー。あたしの攻めを受けてみる、カイト?」


「受けるくらいなら死ぬよ、マジで」


「でもカイト、カードゲームでは勘弁してあげないからね!」


 カードを片手に、挑戦的に向けてきた。


「ああ、お手柔らかに頼む。僕はしないけどな」


「上等ォ! 勝負よカイト!」


「お兄ちゃんがんばれぇー」


 しばらく3人でカードゲームをプレイした。


 楽しかった。本当に楽しすぎた。だから心がぶれた。

 生きたい方向に――。


(決めた。明日、絶対に自殺しよう。これ以上 ちょっぴりでも生きたいと思いたくない。早く死んでスッキリしよう。どうせ自殺してもしなくても僕は死ぬのだから、早いほうがいい)


 僕たち3人は、夜中の11時過ぎまでカードゲームを楽しんだ。


      ◆


 テーブルから立ち上がり。


「じゃあ、そろそろ帰るわ。さっきも言ったけど、あしたは大事な用があるんだ」 ――自殺という。


 玄関へと向かう僕の後ろから、2人が最後の言葉をかけた。


「バイバイ、カイト」


「お兄ちゃん、さよなら」


「ああ、またな」 (天国があったら、またやろうぜ)


 ――バタンと、幸田家の玄関のドアを閉めた。

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