第39話 最後の演奏
八月二十三日。演奏会当日になった
都心からは少し離れた丘の上にある施設。
とても心地の良い場所。そんな所にある施設からひとりの男性が出てくる。
彼を
「ようこそ! お待ちしておりました」
「いえ、いえ、こちらこそ招待していただきありがとうございます」
彼の言葉に
彼の名は、
男性の平均身長。イケメンといえば、誰もが想像するであろう爽やかな外見。親しみやすそうな雰囲気で、老若男女支持されるであろう人物だった。
自慢の彼氏を紹介できて
「あれ? 確か前に見た時はゴツい人だったような?」
紹介された
「ちょっと来て!」
「いつ見たんだ!」
「いつって……」
「いつ見たって聞いてるんだよ!」
先ほどよりも強い口調で曜に詰め寄っていく。
「二週間ほど前、街を歩いてるのをたまた
ま……」
「忘れろ」
「えっ!」
「いいから忘れてくれ。それと、このことは誰にも言うな。
「うん、わかった」
「
「なんでもないよ。ちょっと話したいことがあって……」
誤魔化すのが下手すぎる
「じゃあ、施設を案内するよ」
しかし、気持ちを切り替えていく。
彼の言葉に
「お姉ちゃんたちだー」
無邪気な姿で
「えんそうしてくれるんでしょ! 楽しみー」
「うん、するよ! 最高に楽しい曲を持ってきてるんだ!」
目線を合わせてあげて演奏が最高のものになることを宣言する
「じゃあ、行こうか」
子供たちは
一緒に食堂や大広間などを見て回る。
一通り施設内を見渡した後、子供たちが「遊んでほしい」とおねだりしてきた。
その要望に応えるように
その姿を見て、
「じゃあ、演奏の準備しておくからね」
「お願いします!」
演奏は大広間で行うため、そこに演奏道具を運ぶ。
「ウチも手伝うよ!」
「いや、
「でも、ウチ……」
「いいから……ね?」
爽やかにウインクをし、彼女を説得していく冬夜。その表情に
「わかったよ……」
今まで見せたことのない乙女の表情を見せた後、平常心を取り戻して
「じゃあ、何しようか」
「お歌、歌いたーい」
「歌かー。いいよ。お姉さんたちと歌おうか」
「うん!」
その姿に
「失礼だね、大好きだよ。将来は三人は欲しいと思ってるんだよね」
「でも、相手がいないもんね」
「余計なこと言わない!」
「ごめんなさーい」
舌を出して、可愛く謝る。
こういった仕草がたまに
楽しく歌を歌ったり、かくれんぼやボウリング(自作)などをして楽しく過ごす。
子供と触れ合っている時はとても楽しく、時間を忘れさせてくれる。
特に
「演奏の準備できましたよ」
透き通るような男性の声が聞こえてきた。その声を聞いて「じゃあ、行こうか!」と
ステージに上がる。
夏祭りの時と違い、緊張は一切しない。
直線に、触れ合っていたからというのもあるのだろうが、おそらく、子供たちに悪意の感情が全くないからだろう。
彼らは心からこの演奏会を楽しみにしてくれていた。
その感情が自分たちを射抜くようだった。だから……
今回は『ポップな曲』を選曲。
理由は単純。楽しんでもらいたかったから。それに合わせ、ボーカルは子供っぽさを持ち合わせている
それには、ベースの弾き語りをやって腕を上げようと言う目論見もあったが、
緊張感はメンバーの誰ひとりにも沸かず、リラックスして自然体で演奏ができている。
中盤にさしかかり、
ギターのソロ演奏を入れ、かっこよく、それでいて美しく仕上げていく。
ギター奏者の
技術だけでなく、情熱までもプロ級だ。
そして、次にキーボードが魅せた。
中学ピアノコンクール最優秀賞者の実力を遺憾なく発揮していく。
場所、シチュエーションによってバリエーションを変えられる
その技術は間違いなくこの軽音楽部にとって唯一無二の宝になるだろう。
途中から乗ってきて、
それは会場にも
「じゃあ、フィニッシュ決めるよー」
最後に
かっこよく終わらせ、会場からは拍手喝采が巻き起こった。
「お姉ちゃんたち、かっこよかったよ」
「うん、かっこよかった」
子供達の笑顔が見れて、
夏祭りでは成し得なかった景色。
とてつもない達成感と喜びを得られ、とても満足な演奏になった。何より、子供たちの笑顔が見れたのが、
だが、彼女たちはまだ知らない。そう、これがこの四人での最後の演奏になるとは……
*****
「ジャガイモの皮はね、こうやって剥くんだよ」
ピーラーを使いながら、丁寧に皮の剥き方を教えていく。
彼女たちは今、カレーライスを作っている。
だが、「どうせなら一緒にカレー作りをしよう!」と、
「手伝ってもらって申し訳ないです」
「いいんですよ。みんなで作ると楽しいですしね」
その横では
「楽しいね!」
「なんか小学生の時の野外活動を思い出したよ」
「そうなんだ。でも、あれってなんか楽しいんだよね。もちろん、今も楽しいよ」
「おー、その気持ちわからなくもないぜ!」
子どもたちもその話に興味を示し、話をしながら、一緒に料理を作っていく。
子どもたちが切った野菜とルーを入れて煮込む。
その間に時間が余るので、ご飯を炊こうと思ったのだが……
「釜で炊くんですか?」
「まぁね。こっちの方が美味しいでしょ? ここでは毎日釜ですよ」
子どもたちが何の躊躇いもなく、釜でご飯を炊いていく。その姿を見て
「ボクもやるー」
「アタシも!」
双子が割り込み、子どもたちと一緒に釜でご飯を炊いていった。
そうして、楽しくワイワイとカレー作りを進めていき、一時間ほどで完成。
皆で机に座り、いざ実食。
一口、口に入れるだけでほっぺが落ちるほど美味しかった。
みんなで作ったカレー。それだけでいつもと違い、特別な料理のように感じられた。
「ごちそうさまです。美味しかった」
「それはよかったです」
「ご飯も作れる、ギターもできる、子供にも人気。ウチの彼氏は完璧なんだ! 自慢の彼氏だよ。結婚しような」
そう言って皆がいる前なのに、
その姿に全員が頬を赤らめる。肝心のキスをされた
この日はお言葉に甘えて施設に泊まらせてもらった。夜遅くまで起きており、枕投げなどをした。
とても最高の思い出になった。
*****
演奏会から一ヶ月。
「どんな歌が聞けるんだろうねー」
「まぁ、軽音楽部のための視察ってやつだから、絶対物にしないと」
「そんな意気込まなくても……」
プロのバンドマンが訪問して演奏してくれるらしい。しかも、そのイベントが無料で開催されるのだから、太っ腹もいいところだろう。
最高のイベントに胸を躍らせながら三人は街を歩いていると……
「いいだろ? 今日も楽しもうぜ」
「嫌って言ってんだろ! しつこいと警察呼ぶぞ!」
懸命に拒否反応を示しながら、怒鳴り声をあげている人がいた。
女の怒鳴り声に屈強な男は、目を細めながら、
「いいのか? そんなことを言って。テメェが今、のうのうと生きてられるのも誰のおかげだと思ってる」
その言葉で
「
そこにいたのは、前に見たプロレスラーのような見た目の屈強な男だった。
「
「知り合い? あぁ、確か軽音楽部とかやってるって言ってたな。その仲間か? 」
だるそうな口調と表情で男は
「お嬢ちゃん、これから俺は
「そんなこと……」
ないと言いたかったが、あまりの威圧に
その後を
「
「だって、
泣きそうな
「おっ! 勢揃いじゃねぇか! あの
「
「なーんだ、いねぇのか……なら、お前でもいいや。可愛いし、俺の好みだから遊んでやるよ」
そう言って
こちらに迫ってくる姿が、同じ人間とは思えないほど怖く、
「おー。怖! まぁ、いいか。この体を堪能できるだけでも」
そう言って
その行為を見て三人は、不快感を覚えた。すると……
「
甲高い作り声が聞こえてきて、三人は声の方に振り向いた。
そこには雪のように真っ白な肌をした清楚な女性が佇んでいた。
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