第37話 四重奏(カルテット)
ドラムの一音目から夏祭りの演奏は始まった。
その後にキーボード、ギター、ベースが同時に続く。
音楽は祭りをイメージし、『和』をコンセプトにしている。
キーボードの電子音で琴の音を、ギターやベースで
観客は皆、
これだけ聞けばとても良いことに聞こえるのだが……
「なんかねー」
「期待はずれだね」
「なんでこのレベルで出ちゃったかなー」
観客の心に響く演奏を届けられていなかった。
現にステージの横で聴いていた
そのため、
ただ、彼らの耳が肥えているだけ。
この祭りのイベントでは
だが、そんな言い訳は通用しない。
このステージに立ったのならば、全力で観客に応えなければならない。
それがステージに立つものの義務だ。
それをわかっている
その想いに続くように他の三人も懸命に音を紡いでいく。
そろそろサビにさしかかる。
ここが一番の盛り上げ場所だ。だが、会場のボルテージは一切上がっていない。それどころか冷め切っている。
やりにくい。それが
そんな時、
それに釣られてしまったのか、
そこからは聞くに耐えない音楽になってしまい、一番の盛り上げ場所で失敗という一番やってはいけないことをしてしまった。
「なんだよ! あの演奏は!」
「期待して損した!」
「時間を返せ!」
言われたい放題に言われてしまい、
そのヤジに失敗の元凶となった
双子の顔を見て
一生懸命に練習をしていた。
演奏技術も申し分ないものだった。
ただ、立ったステージがあまりにも高すぎただけ。
ここは楽器を初めて二ヶ月の人間が立っていいステージじゃなかったのだ。
あの
「
小学生の時だけだが、同じピアノ教室で同じだったよしみだ。悪く思いたくない。
こうしている間にも観客のヤジは止まらない。
祭りの賑やかな風景を壊すほどのヤジに、
「なんで止めんだよ!」
「ここで口論しても意味ない。私たちが至らなかった。素直に謝ろう」
悔しいが、ここは観客の意見に素直に従うことにする。
今度は一歩前に
その姿を見て、
それに続き、双子が頭を下げ、最後に
最終的に五人で謝罪する形になったが、
一連のやり取りが終わると、観客のざわめきは止んでいた。ここまでしてまだヤジを飛ばすほどの性根の腐った連中はいなかったらしい。
しかし、ひとりだけは違う反応を示す。
黒い浴衣の女性だ。ステージの裏のテントからステージ上へと上がってくる。そして、
「アナタたちの演奏はあんなものなの?」
「どういう意味だよ!」
「簡単なこと。仮にも私の父上の祭りに参加してこの程度の演奏を晒すなんて、私たちが惨めになる。挽回して」
「テメェの都合かよ!」
「悪い? いいから挽回して。じゃなきゃ帰って」
「おい! 待て!」
「やるしかないみたいだね。でも、私としてはチャンスをくれただけ嬉しい。もう一度、いい演奏を見せて観客のみんなに楽しんでもらおう!」
そんな彼女たちに、「大丈夫だよ!」と声をかけていく。怯えている
練習の時もこの声をかけてくれた。
楽器は初心者でなかなか上達しなくても、
そのことを思い出し、二人はなんとか元気を取り戻す。
深呼吸して、四人はまた演奏に入った。今度は失敗はできない。
絶対に成功するんだという気持ちを胸に宿す。
練習した曲は先ほども演奏した『花火』という楽曲だけだ。
夏の始まりと終わりを花火に
失恋もテーマに加え、作詞作曲していった。
恋愛面に関しては
ボーカルはもちろん
慣れないバラードを自分らしく噛み砕いていく。
元カノと別れた時の切なさ、出会った時の嬉しさ。楽しかった思い出など、色々と考えながら歌に落とし込んでいく。
だが、観客の表情は先程と変わらない。
それどころか
一番も終わり、二番に入る。そんな時……
「もういい」
黒色の浴衣の女性が彼女たちの演奏を遮った。
「まだ終わってな……」
「もういいって言ってんの。降りて」
冷たく、あしらうように告げられる。
その言葉に
暗い表情でステージを後にする
「よくあんなレベルで演奏させようなんて思ったわね。アンタの耳、腐ったんじゃないの」
「
「言うじゃない」
内心にイライラを宿しながら、言葉を返す
そんな彼女の返しに
その言葉には彼女は反応を示さなかった。
初の四人での演奏は失敗に終わった。
その
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