第34話 最高の舞台
「続いては、軽音楽部(仮)による演奏です。こちらの部活動はまだ正式なものではありませんが、今回特別にこの舞台に立つ事を許可されました。ぜひ、お聞きください!」
一通りのアナウンスが終わり、
本来ならこの状況は設けられなかったものだ。だからこそ、この機会は絶対に物にしなければならない。
だが、実際に舞台に立った途端、
中学ピアノコンクールでの失敗がフラッシュバックしたからだ。
負けた。全力でやったのに……
皆の期待に応えられなかった時の心の痛みが
その不安を感じ取った
歓喜にすれ違い。色々とあったあの練習期間を。
*****
「合わせれねー。やっぱ、このテンポはウチには厳しいわー」
スローテンポな曲調に適したラップを選んで『
それは
ラップというジャンルは取り入れたことがない。敬遠していたわけではないが、自分の経験値としてないものはどう応用して良いかわからない。
故に、二人は悩みを抱えてしまう。
「いっそのこと激しい歌に変えちまうってのはどうだ?」
「それは難しいよ。そうしたら曲自体を作り直さないといけない。この曲を作るのに三日かかったんだよ。歓迎会まではあと二日しかないんだから」
「でもなー」
努力を嫌い、向いていないものはやらなくてもいいと考えている。
ラップというジャンルは楽しく、たまたま自分に合っていたから始めた。ただそれだけ。
だから、音楽もラップというジャンルが無かったら始めていなかったかもしれない。
文句は言いつつも、もう一度練習に付き合ってくれる。
中盤部分。サビに入る前に、
自分の知識を
技術面に関しては文句の一つもない。が……彼女自身が納得のいくライムを刻むことができないらしい。
「はぁー、これ以上は無駄だと思うんだ。変えようぜ」
「ダメ! 変更したら絶対に間に合わない」
意地の張り合いが続く。
第一、ここで陽奈のわがままを許してしまったら、部活動が結成された時にも彼女中心になってしまう。
それを許すと軽音楽部というものが崩壊する可能性がある。それは、ピアノ教室に通っていた時に体験した経験から推測できた。
あれは小学生の頃。メガネをかけた一人の女の子が
彼女自身も子供だったので、先生も結果に甘んじてその子を甘やかしていた。
しかしある日、ピアノ教室は険悪なムードになってしまい……結果的に収拾がつかなくなった。
先生が修正をしてくれたため事なきを得たが、あのまま放置していたらと考えるとゾッとする。
前のようなことにはなってほしくない。その一心で、
それが彼女には癪に触ったらしい。強気な言葉を発していく。
「あー、ウチに指図するってわけ? アンタ自分の立場が分かってないようだね。ウチがいなきゃ……」
そこまで行って
「それは一人で……それがどうしたの?」
「そう、一人でやるつもりだったんだよ。だったらよ……」
美月の耳元で
「だろ? 早速、練習してみようぜ」
二人は今言った方法を実践してみた。
『お互いのことは考えない』。普通に考えれば、何を考えているのか理解不能な意見だ。
しかし、彼女たちには即興ができるだけの技術と経験値がある。
それを大いに振る舞い、自分がやりやすいようにやっていく。その場の感覚で調和を合わせていく。
二人は歌い終わる。
「今までで一番良かったんじゃない!」
「そうだな! これをブラッシュアップさせれば……」
「本番でも通用するかも!」
「じゃあ、それで決まりだな!」
*****
短い練習期間だったが、とてもいい出来に仕上げたと思っている。
自分を信じて……
数秒前奏が流れた後、陽奈のギター演奏も組み込まれる。そこに、
高音の中にクールな低音が混ざりあう。
普段の彼女の声とは正反対で、聞いているものの心を一瞬で鷲掴みにする。
歌に込めたテーマ──『感動を呼ぶ曲』をイメージしながら、歌い方に落とし込んでいく。
訴えかけるように。しかし、押し付けはしない。相手の感情に
その気持ちに追い打ちをかけるかのように、荒々しい歌声が観客を襲う。
自分の思うようにライムを刻む。
訴えからのインパクト。ギャップをつけることを意識して観客へと歌をぶつけていく。
休む暇もないうちに、
感情がぐちゃぐちゃになる観客だが、形容しがたい熱狂へと変わっていく。
ドラムはない。それでも、
観客の一部は立ち上がり、二人を応援する姿勢をとる。
ラストスパート。
ここでミスをすれば全てが台無しだ。だが、準備は念頭にしてある。そう最後は……
ラップとバラードのハモリ。それが、最高のハーモニーを作り出し、全てを
最後に
最初から最後まで構想を練って迎えた演奏本番。思った以上に反響があり、二人は目の前の景色に輝きを感じていた。
「ありがとうございました! ぜひ、軽音楽部をよろしくお願いします!」
お辞儀をして二人は舞台から退場していった。
「
「そうだよねん! キラキラしてた! アタシ……」
「ボク……」
『バンドやってみたいかも!』
双子は向かい合う。
バンドという未知の領域に飛び込むことに、希望を見出して……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます