過去編〈軽音楽部編〉
第32話 全ての始まり
「高校デビュー!」
「ちょっと、恥ずかしいからやめてよ」
当然、周りの生徒たちは二人を見ている。痛い視線だったのだが、
「高校生だよ! 高校生! なんか大人になった感じだよね」
「まぁ、ちょっと清々しいよね」
義務教育からの卒業は、一歩だけ階段を登ったかのように感じだ。だから、気持ちが高まってくるのも理解できる。
二人は自分のクラスを確認していく。
一年B組。中学の時のように同じクラスだ。
「またよろしくね」
「こちらこそ」
二人は向かい合い、お互いに笑い合う。その後、自分たちのクラスに向かうために歩いて行く。
「それより、部活動何にする?」
「私は決めてないなー。
「当然、軽音楽部!
「またそれか……」
いつものように目を輝かせる。そして、「
「いーや、だって、私音楽の才能ないもん。
「そうかー」
「でも、応援はしてる」
「ありがとう」
いつもと同じ会話が繰り広げられる。雑談をしている間に教室へとたどり着く。
教室ひとつとっても、中学の頃とは違う。見た目というよりは、感情面だろうが、『高校生』というだけで特別感がある。
入学式にちょっとした担任の話で初日は終わった。
次の日から部活動の勧誘が始まった。
「君も一緒に芸術に打ち明けようよ!」
「嫌です。特に美術部は。中学で散々な目にあった」
「そういえばそんなこともあったね」
デッサンをしていたのだが、ひとりの男子生徒に自分のデッサンをバカにされたらしい。
特にひどいものではなかったが、その男子生徒のツボにはハマったらしく、卒業までずっと言われ続けたという。
「行こ!」
あまりにしつこいので、
「この学校に軽音楽部なんてないけど……」
「えっ!」
「そういえば、勧誘も見てないし、名前すら聞いてないような……」
「嘘でしょー!」
念願砕かれる。
「
教室へと連れてきた
何も反応がない。
その姿は抜け殻と評しても変わらないものだった。
ついには
「
授業で指名されたらしい。反応がない
「なん、ですか?」
「なんですか……じゃないでしょ!
言われた通りに、指示された箇所を答えていく。しっかりと合ってはいた。さすが特待生というところだろう。
こんな抜け殻状態で、昼休みまで過ごした。しかし、
「そうだ!」
急に血色が良くなり、
「どうしたの? 急に大声なんて出して」
「ないなら、作ればいいんだよ!」
「はい?」
「私たちで軽音楽部を設立しよ!」
「はー、
だが、思い立ったが吉日。それが
早速、生徒会室に直行。
当時の生徒会長に部活動申請の申し出をする。
「あのー、作るのは構わないのですが……部活動を設立するのに必要なルールをご存知ですか?」
「ルール?」
「はい。部活動申請には最低でも部員は五人必要なんです。集められますか?」
「大丈夫です! やります!」
気合の入っている
生徒会室から勢いよく飛び出していく姿を見て、生徒会長は
「
「私やらなって言ったでしょ!」
泣きつきながら
あれから三日。頑張って勧誘するも、誰ひとり入部してくれない。それどころか、関心すら示してくれないため、誰も
「
「そんなことないよ。音楽の素晴らしさを
「それって人によっては、うざがられるよ……」
熱量がオタクの域に達している
軽音楽部の
その上、中学ピアノコンクール最優秀賞者という経歴すら広まってしまい、レベルの高い変人という一番敬遠したがる存在になってしまった。
「こんなことで諦める
「でも……このままいったら、一生設立できないかも……」
落ち込む
「わかった。どうしても最後のひとりが集まらなかった時、私が最後の穴埋めで入ってあげるから」
「ホント!」
「私が嘘言ったことある?」
今までの
「約束だよ!」
「はいはい、勧誘頑張ってね!」
手を振って
「どうせなら、
「──
「そうかな?」
意外と
それを胸に咲良は
「軽音楽部に入りませんか!
元気
「あちゃー、なんでこんなことするかな? ただでさえ、
「この方がいいかなと思って」
「あのね、勧誘ってのは、この部活動の良さを伝えて『入りたい!』ってい風にしないとダメなの。特に、この学校は音楽に興味持ってる人が少ないから、そこから始めないとだけど……
中学で三年間過ごし、
それでも、
配ったチラシは受け取ってくれたので、あとは明日、どれだけの人が来てくれるかに期待だ。
家路に着き、交差点で
次の日も部活動勧誘。
誠心誠意を込めて、『お願いします!』の言葉を紡いでいく。そんな時……ひとりの女性が設置されている椅子に腰をかけた。
「軽音楽部ってここ?」
「入りたいんだけど」
突然の申し出に、二人はきょとんとするが、すぐに理解が追いつき、
「ホント! 歓迎だよ!」
念願の一人目。しかし、隣にいた
「申し訳ないですけど、お帰り願えますか?」
「あー、ここは入部させる人を選ぶのか?」
「そういうわけじゃないんですけど……」
「だったらいいだろ?」
めんどくさそうな表情を浮かべながら、箱を取り出す。中から白い棒状の物体を取り出し、口に咥えた。
「それってまさか!」
「ばーか、お菓子だよ。気分でもこうしてないとイライラすんの。で、入れてくれるの? ダメなの?」
圧が強く、
「もちろん歓迎だよ! 一応、聞くけど音楽経験は?」
「ギターをやってる。彼氏に影響されて始めたって感じ」
「じゃぁ、その彼氏さんも一緒に……」
「悪いね、彼氏大学生なんだわ」
女の言葉が
「そうか……でも、アナタだけでも歓迎! ここに名前お願いできる?」
「ちょっと……」
その言葉に
女が紙に名前を書く。
「
「なんでもいいよ……」
やっとこさ一人目が入部。
その横では
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