第30話 奈落の光
生きていれば必ず訪れるものだが、あまりにも早すぎる別れ。出会って一年も経っていないのに。
それが心を打ち、情報の整理をつけるのが困難だった。
だが、目の前で大泣きしている当事者を前にした翔兎は、なんとか状況を把握できるほど思考が巡る。
彼女を抱きしめ、「大丈夫だ。俺が付いてる」と優しく声をかける。
二人の光景を入り口から出てきた美月の母──
「
しばらくして、少し落ち着いた
落ち着かせるために
「あの状況から察するに、聞いたのね」
「はい」
気弱な声で返事をする
「
疑っているつもりはない。人を困らせたいがために、
ただ、嘘であってほしい。その
「本当よ。私も嘘であったほしかった。でも……」
「医者から詳細を聞かされた。すぐにでも入院したほうがいいって」
「そんなに深刻なんですか?」
「えぇ、スタープロジェクトは、もう無理かもしれない」
一番聞きたくない言葉を聞いて、
だが、それを奪われるということは、彼女の今までの苦労が水の泡になることを意味していた。
「あの子ね、
自分が
もし、彼女も自分のことをそう思っているのなら……音楽以上に、死ねない理由がある。恋とは人を狂わせてしまう麻薬みたいなものだから。
「
「わかりました」
大切な人の死が決まっても、世界はいつも通り回り続けている。
故に、
いつも通りに
どんな出し物をするか。
他の学年に負けないようにどうやって計画を練っていくかなどだ。
しかし、
「おい、
クラスメイトの一人の男子生徒が声をかけてくる。
「どうもしねぇよ。俺たち仲良くもねぇんだから、話しかけてくるなよな」
「いいだろ! 話しかけるくらい」
「俺には迷惑なんだよ。それに、出し物なら好きなのやってくれ。俺はそれに便乗するだけだから」
「チッ! ノリ悪いな。せっかく話しかけてやったのに」
悪態をついて、
いつも通り、
窓の外を眺め、三日前の
あれから連絡は取っていない。どう話しかければいいのかわからないからだ。
スタジオにも顔を出していない。
話すとややこしくなるし、下手をしたらバンドの中に
これは完全な
突如、教室の扉が開かれ、「
「どうかしましたか?」
突然の上級生の訪問。名前を呼ばれた本人以外も訪問してきた彼女の方に注目してしまう。
「
「
原因は知っている。だが、それを伝えるのはあまりに酷だ。
「お願い! 知ってることを話して」
この場所では話せないことを伝え、
「嘘でしょ……」
中学からの親友の死。突然の告白に、
あれから二週間。なんの進展もなく、日常は過ぎていく。
起きた出来事といえば、ライブ配信を欠いたことによるランキングの急降下。
だが、仕方がない。余命宣告されてから、
二週間も欠席したため、
「みんな、ごめんね……」
自分の不甲斐なさに
バンドがやりたい。みんなに会いたい。
頭ではわかっているが、迫り来る死を前にしたら、恐怖以外の感情が湧いてこず、前に進むのすらも
そんな彼女のスマホに、着信が届いた。
着信の主は
「
唯一、真実を知っている人物。
今、一番そばにいてほしい人。
彼の名前が表示され、
「もし、もし」
『
「
涙ぐんだ声で言葉を紡ぐ。
時間が経てば解決してくれると思った。母もそう言っていた。
それでも、人間の最大の恐怖──死を前にすると、人はどうしようもなくなってしまうのだと体験して初めて痛感する。
『
「無理だよ……」
『そんなこと……』
「ある!」
『────』
「
正論すぎる
「ごめん……ただの八つ当たりだよね。
『俺の方こそごめん。でも……』
『俺は
全力で自分の気持ちを伝える。その言葉に
「
唇を噛みながら、涙を堪える。その後、一度深呼吸をして、
「
その後の言葉を聞いて、
「やっぱり想いを伝えるのって恥ずかしいね」
『いや、ありがとう』
二人は電話越しで赤面する。
「このことは
『悪かった。ごめん』
「まぁ、
『なんだよそれ!』
二人は笑い合う。来たるその日が来るまで、同じ道を歩み続けるために。
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