第29話 突きつけられる現実
その事実を
「スタープロジェクトのためにライブ配信するなら、エントリーしているメンバー以外の参加は認められない。よって一度きりの助っ人は使えない。もし、使った場合は、ライブ配信はできない」
「そんなー!」
二人きりで参加してライブ配信をするか、助っ人を使って校内演奏だけで終えるか。その選択を迫られる
「でも、宣伝も兼ねてるんだろ? だったら、配信しなきゃ意味ないだろ?」
「そうなんだよなー」
校内演奏になれば、やる意味はない。だったら、出す答えはもう決まっている。
「二人でやろ! 私たちならできるよ!」
「あっ、あぁ……」
いきなり手を握る
「ハニー! 僕以外の男の人に微笑みを向けないでー」
「うるせぇ!」
肝心の
「じゃあ、二手に別れないか?」
「二手?」
「あぁ、
「うん、いいね!」
四人の方針は決まった。
早速、二手に別れて作業に入っていこうとするが……
「
「そ、そんなー」
落ち込んでいる
完全に二人きりになってしまった
だが、彼女を意識し始めてからは初めて。人の気持ちとは少し変わるだけで、百八十度見え方が変わるのだと思った。
「
遠くを見つめながら、自分の感情を整理しようとしている
「今回なんだけどさ……キーボード主体の歌にしてみない?」
そんなこんなで、あの日から一週間。
考えていた歌自体は半分近く完成していた。だが、肝心なサビの部分のメロディがなかなか決まらない。
「マイハニー! 一週間ぶりだね! 会いたくて、会いたくて、死にそうだったんだよ!」
「は、はい。ありがとう。
「わかったよ」
「こういうのはどうかな?」
サビに入る前に一拍置き、サビから一気に盛り上がるメロディ。しかし、「しっくりこないなー」と
今回演奏する軽いバラード調の曲には合うかと思ったのだが、
「ならこれならどうかなー」
他の音も二、三種類ぐらい出すのだが、どれもうまくハマると思ったものは見つからなかった。
その後も、いろいろな音を奏でていくが、いいメロディは見つからない。
気分転換に口笛を吹く
「こういうのはどう!」
そう言って、
サビは少しだけ切ない感じになったが、その中に元気付けられるようなものも含まれており、歌詞の『戻らない時もあるけど、今を大事に進んでいきたい』にも合っていた。
「じゃあ、ボーカルは
「えっ!」
「だって、
「そうかなー」
「そうだよ。マイハニーの歌声は癒しの歌声だ! まさに歌姫。そう呼んでも
「はい、はい。お前はこっちで作業だからな」
いつの間にか割り込んでいた
「まぁ、
「おい! まさか文化祭の準備と両立するつもりか?」
「そうだけど……何か問題かな?」
「大アリだ! 学業に文化祭。スタープロジェクトの配信。こんなに多忙だとお前がぶっ壊れるぞ」
「まぁ、腰とか足とか、身体中痛いけど……それでも、今この時は充実してるんだ。みんなと一緒にこれからも音楽やっていきたいなー……なんてね?」
「何言ってんだよ。今更当たり前のことを……俺たちの目的は優勝だろ? 絶対勝とうな」
「うん!」
「何かの間違いじゃないんですか?」
女医の説明に母──
常に冷静沈着な
しかし、この状況を突きつけられたら、どんな人間でもこうなってしまう。
結果が結果だ。泣きそな感情を堪えて必死に説明を聞いていく。
「乳がんです。しかも、ステージ四まで進行しています」
「でも、切除すれば治るんですよね」
「えぇ、乳がんだけなら……残念ながら全身に転移しています。これを全て切除するのはほぼ不可能と言ってもいいでしょう」
更なる絶望が
何も自覚症状はなかった。だが、
腰痛、頭痛、腹痛などちょっとした痛みが、がんの症状だったということはよくあることだと。
「そんな……
「持って三年。生きられても五年以内には……」
女医が
聞きたくない言葉だった。
自分が死ぬ? これからスタープロジェクトも本番なのに。一生懸命練習して、優勝を目指す。そのつもりだったのに……
「早速ですが……入院して、少しでも延命治療を。その間に私達の方で治療の可能性を……」
女医の言葉が聞こえて、
「
診察室を飛び出した
病院を飛び出した
余命宣告。自分の人生とは無縁だと思っていた。
「いやだ……死にたくない。それ以前に……」
もっと一緒に、
「
メンバーの名前を口にする。
出会うまでに色々あった。悩むことも、傷つくこともあった。でも、意気投合し、一緒に同じ目標に向かって
そんな彼らとの思い出が全部なくなる。それが
「
塞ぎ込んでいる彼女の耳に、男の人の声が聞こえてきた。
いつも聞いている声。とても落ち着く声。
その声に
「どうしたんだ? こんなところで」
かけられた声に
「は?」
意味がわからなかった。
混乱している
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