第22話 一次予選最初の関門
この構図は一カ月やってきたので、もう慣れている。
憧れの人に演奏を見てもらえる美月は、緊張している自分を落ち着かせるために、深呼吸をした。そして……演奏を開始する。
熱意が込められているからか、演奏している美月たちは熱くなり、目の前の演奏にのみ力を入れていった。
全演奏が終わる。
「すごい、すごい!」
演奏しきった
「ありがとうございます!」
まさか褒められるとは思っていなったため、彼女の口から出た言葉に、驚きを見せていた。
伝説からの評価。それは思った以上に好評だったようだ。これなら一次試験は突破できる。そう思っていたが……
「結成一カ月にしてはって意味ね」
急に声のトーンを落とし、氷のように冷たい声色で言葉を放った。
一瞬にして変わる現場の空気。
「すごく頑張ってきたのは感じた。でも、ギターの君、あーしからしたら舐めてんのって感じ。音も少しだけ変なところがあった。それに、ドラムの君、テンポ速い。そのせいで曲のテンポが少しだけ速くなってる。そこに彼女と彼が合わせるから、音がワンテンポだけ速くなってる」
音をよく聞いていないとわからない違い。それを指摘されて、二人は落ち込む。
「ウチからした
「嘘ー、あーしは彼女ちゃんは大丈夫だと思ったけど?」
「それは、
「なにそれ、嫌味?」
「とはいっても、弾き方に癖があるだけ。
メンバーには見せない表情で話しかけ、
それだけ、ファンと言ってくれた事が嬉しかったのか。それとも
話し合っている彼女たちを見て、
「お互い改善点がわかったかな?」
「はい! ありがとうございます!」
自分たちに何が足りないのか、それをプロに直してもらう。それがどれだけ上達に必要なことかは説明するまでもない。
「まぁ、このままじゃスタープロジェクト優勝はおろか、一次予選も突破できねぇからな」
「
「
かなり心に刺さったが、プロから見たらこれが現実であることには変わらないので、悔しくても口答えができない。
「じゃあ、参考までにスタープロジェクトに出てくるバンド達の演奏レベルを見せてやるよ。現実を知り、それを乗り越えていけよ、
同じ状況を作るために、
ドラムがリズムを刻み、ギターとベースが音の土台を作っていった。そこにキーボードも入り……
全てが調和されている。一言で表すには
音のズレがないのは大前提。だが、それ以上に心を熱くさせてくれるものがあった。
一音、一音が綺麗で、鼓膜を刺激した瞬間に彼らの世界に没頭させられる。
目を釘付けにされ、時間すらも忘れてしまう。
「これが……」
喉を鳴らし、卓越された演奏の余韻に浸る
「どうだった? これがプロの世界だ。怖気付いたか?」
「脅すんじゃないよ! まぁ、これから練習して上達していけばいいからさ。ところで……あーしらが君たちの演奏を見てあげるってのはどうかな? 結構気に入ったし、彼女ちゃん可愛いから応援したいし」
「あのー、できれば名前で呼んでほしいです」
「そう? なら、
「はい!」
「じゃあ、
「ぜひ、お願いしたいです!」
思いがけない申し出に
「どうした?」
「どうしたも何もないだろ。誰かに肩入れするなんていいのかよ?」
当然の疑問だった。
彼らはプロだ。
「君たちはなんでこの一次予選が動画配信なのか、しかも三ヶ月も期間が設定されているのか知ってる?」
突然投げかけられた質問に、三人はすぐには答えられなかった。
「演奏技術だけを見るなら、他のオーディション番組みたいに書類審査を行い、人数制限をして本戦のように対バン形式でやっていけばいいはず……なのに、この方法を使っていないってことは?」
「演奏だけを見てるわけじゃない……」
「正解! この試験では人を惹きつける魅力。それを見てるんだ」
「だから、誰を味方にするかで一次試験突破の確率は上がるってわけだよ」
一次試験の現実。それを突きつけられ、この大会で勝つことがどれだけ困難なのかを知る。
「まぁ、僕たちが
「えっ!」
「当たり前。そんなことしたら、アンチ湧く」
「なるほどな」
「簡単だよ。
「そういうこと。でも、演奏のアドバイスをあげることはできる。そういう風に
「はい!」
平日は動画投稿とライブ配信。土日は別荘での練習。そういうスケジュールを立てた。
目指すべき目標がまたでき、練習に意気込みを入れる。そんな時、
「
「なんですか?」
「もしよかったら……」
そう言って、
「なんですかこれ?」
「僕たちがスタープロジェクト本戦で演奏する予定だった曲だよ。もし、よかったら君たちに演奏してほしい」
「そんな……
「お願いします」
それは『すれ違い』をテーマにしたバラード調の曲だった。
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